南シナ海問題の本質

加藤 完司

南シナ海は以前より中国、フィリピン、ベトナムなどが利権を主張し合う紛争地域であった。今回の仲裁裁判は、南沙諸島は少なくとも中国固有の領土ではない、という判決を示したものである。それゆえ、中国の南沙諸島での埋め立て工事は、自国領土外の実効支配の確立と軍事基地造成という意味で、対象エリアは海域であるものの論理的にも実質的にも「侵略」と同義とみなすことができる。

中国の武力と経済力を背景とした「侵略」行為を「容認」するか否か、世界がその態度を問われている、というのが南シナ海問題の本質である。

日米両外相は夜にはオーストラリアのビショップ外相を加え「戦略対話」を開いた。会談後に発表した共同声明では、南シナ海問題について「深刻な懸念」を表明。「すべての国家に大規模な埋め立て、拠点の建設、軍事目的での利用を自制するよう強く求めた」と明記し、中国に仲裁判決を順守するよう要求した。(日経新聞、7月26日より)

理想的な解決は、中国が紛争地域であることを認め、埋め立てた島を原状復帰し、実効支配を解くことであるが、中国は確信犯である以上、世界がいくら判決の遵守を求め、深刻な懸念を表明しても、事態に変化を期待することはできない。

一方、軍事的な解決は誰も望まないだろうし、経済封鎖等の制裁措置も効果が期待できないだけでなく世界経済に甚大なマイナス効果を及ぼすので現実的ではない。結局、口先で牽制し、外交努力と言うきれいごとで済ませているというのが実態であろう。

具体的な解決策への道筋が見えず、単に外交交渉を繰り返し「並行線でした」と繰り返すのであれば、「侵略」を「容認」していることと変わりはない。日本はすでに韓国による竹島の実効支配を許し、また中国が自国の領土と主張する尖閣列島を抱えている(歯舞色丹返還についてはロシアと道筋について合意している)。

フィリピン、ベトナムの立場は他人事でなく、中国に一定の配慮をしたり、正論を申し述べている状況ではない。多分裏では知恵を絞って現実的な解決策を探りだそうと苦慮していると信じたいが、実態はどうなのだろう。