政府は財政措置で13兆円、事業規模で28兆円にもなる新経済対策を来週発表するようです。水曜日の昼休みに発表されたこのプランに株式市場は小躍りし、期待が高まっています。また、今日明日と開催される日銀の定例の政策会議で何か飛び出すのか、こちらにも注目が集まります。通常、二日目の昼(12時前から1時ぐらいの間)に発表があります。
安倍首相の新経済プランについて「切れ目ない景気刺激策を狙う」(日経)としています。「切れ目ない」というのは言葉の取り方では我々は自立できず、カンフル剤を打ち続けなければならないともとれます。IMFの予想では2017年度の日本の経済成長率は0.1%(7月19日改訂版)で先進国、主要国で最低です。つまりボロボロの欧州(1.4%)より、EU離脱宣言している英国(1.3%)よりも、更にあのロシア(1.0%)や大統領が弾劾裁判にあるブラジル(0.5%)より見込みは低いのですが、それは潜在的能力の問題によるところが大きいということになりそうです。
日銀による金融政策については様々なうわさが飛び交っていますが、平均的なトーンとしては「今回は何かやらざるを得ないのではないか」「やるとしたら国債保有純増ベースの拡大か、マイナス金利を推し進めるか、ETF/REITの買い増し」ではないかと論じられています。緩和措置をする場合の手法について市場は既存の手法しかリストアップしていませんが、個人的には黒田総裁のあまのじゃくぶりからはどれも魅力的には映らない気もします。なお、財務省は噂される超長期国債(50年物など)については否定しています。
そもそもなぜ日銀が今回動くかもしれない、と噂される点ですが、参議院選挙が終わり、与党安定政権が確認できたこの時点で安倍首相が目指すのは経済の浮揚であります。そのために財政からは冒頭のような対策を打ち出し、金融からも同等の援護射撃をしてほしいという期待が政府筋からも高まっているからでありましょう。
もう一つは円高へのバイアスがかかっており、仮に今回、日銀が政策判断を見送れば失望感から円高になるかもしれないという「恐怖心」であります。これは日銀の声というより産業界からの要望に見えます。
一方、世界レベルで見ると夏のこの時期はバカンスシーズンで少なくとも7月にはどの主要国/地域も新たなる金融政策は打ち出していません。この先、注目されるのは英国の8月の政策会議ですが、個人的には緩和見送りのような気もします。理由は英国離脱について何ら議論がなされておらず、展開が予想し難いからであります。
では世界の中でなぜ、日本だけ沈み込んでいるのでしょうか?様々な理由が考えられると思いますが、主要先進国との比較で日本に強い傾向があるのはやはり少子高齢化と人口ピラミッドのいびつさではないかと思います。多くのキリスト教、イスラム教国家は人口がそこそこ増え、人口ピラミッドの形はまだそれなりのものを保っています。ところが日本は移民が少なく、出生率が低い上に国民ベースでは90年のバブルまでにひと稼ぎした世代が資産の平均水準を引き上げ、日本経済全体の数字をどうにか保っている状況ではないでしょうか?
これは、お金を持っている高齢者と生活に厳しい若年層という全く新しい切り口の格差の存在ともいえそうです。個人的にはバブル崩壊後にあった国民意識の驚愕的変化は大きな背景かと思います。
即ち、終身雇用が当たり前ではなくなり、非正規雇用が巷に溢れ、ベアや昇給は縮みあがり、個人消費は携帯通話料や関連消費(=ソフト)に向かいやすく、かつての自動車などハードに向かっていたマネーの方向も変わりました。100均で何でもそろい、安ければよいという意識が発泡酒や軽自動車などランクダウンさせた商品を投入させる結果となりました。挙句の果てに現在ではミニマリスト、シェアエコノミー、消費のメリハリなど見方を変えれば消費を更に抑制させながらも幸福感を高める手法が次々とトレンドとして浸透しています。
この時代背景と社会的背景の十分なる再認識を抜きにして経済対策は打てないでしょう。
消費はもっと楽しいもの、お金を持っていればこんなこともできる、あんなこともできるという意識と可能性を若者に植え付けることが重要ではないでしょうか?多くの日本人は海外旅行をしてその物価の高さに驚きます。カナダに来る日本人観光客は「外食なんてできない」と口々にしています。私だって日本に比べて大してうまくもないものに大枚はたいています。しかし、それは海外にいる限り選択肢がないからです。
消費に対する認識を変えることは容易ではありません。が、政府や日銀が投入するかもしれないカンフル剤やモルヒネは継続使用を前提としているようで抜本的意識改革に繋がるものかどうかはチェックした方がよいでしょう。「死に金」という言葉がありますが、折角投入するクスリは体質改善できる漢方のようなものが必要ではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月28日付より