増田県政と自殺率を結びつける記事は“誤報”だ

加藤 拓磨

増田岩手県政下(1995~2005年)において、自殺率は低下傾向にある。

図1は岩手県HP人口動態統計にあるデータを用いて作成した。

図1 自殺死亡率の変化倍率の年次推移(岩手・全国)

図3

1990年を自殺死亡率を基準年として、何倍に変化しているか推移を示した。そこから見えるのは波形は全国と同じ傾向を示しているということである。

そして「岩手県は全国よりも自殺を抑制している」といえる。

私は自民党所属の中野区議会議員として、東京都知事選では、党推薦候補である増田寛也氏を応援している。ただ、政治的立場を抜きにしても、工学を専門とし、国交省の技術研究職としてデータを取り扱ってきた見地から、雑誌「PRESIDENT」が、2016年8月15日号で掲載した渡瀬裕哉氏の「都知事選出馬の増田寛也氏、岩手県知事時代に「自殺率急増」データ」という記事に対して、“誤報”と言わざるを得ない。

というのも、自殺率のデータの読み方があまりに恣意的であり、増田岩手県政を悪い印象をもたせるためのネガティブキャンペーン目的で執筆されたとしか言いようがないからだ。増田氏を応援する立場からの反論というだけでなく、有権者に適切な判断材料を提供する意味で説明していきたい。

記事の内容はタイトルに示されているとおり、都知事候補の増田寛也氏が岩手県知事に就任時に自殺率が増加しているという内容だ。

今回、自殺率の推移を精査したところ、増田県政下(1995年度から2006年度)の12年間において、自殺率が急増していることがわかった。当時、不況の影響で全国的に自殺率は上がっていたが、全国平均との差は大きい。増田県政は自殺対策について有効な手段を講じることができなかったのだ。

図2 増田県政で自殺が急増(PRESIDENT 2016年8月15日号より)

岩手自殺データ

増田県政下において、自殺率が増加したのは確かだ。全国平均についても言及をしているが、図面としては載っていない。こういった場合、都合の悪いデータが消されている可能性がよくある話である。さも専門家のような考察をしているが、統計データを丁寧に分析すると全く異なる考察ができる。

この記事の図面はおそらく上述している岩手県HP人口動態統計データから作成されている。このデータを基に岩手県と全国の比較を行ったのが図3の図面である。図2で衝撃的と思われた1998年からの急増は全国的な傾向であることがわかる。

そして、そもそも岩手県は全国平均よりも数値が高いことがわかる。

 

 

図3 自殺死亡率の年次推移(岩手・全国)

年次推移

都道府県格付研究所HP「人口10万人あたりの自殺者数ランキング」などを参考していただきたいが、全国と各都道府県で自殺率の傾向が異なり、東北3県が多い傾向は知る人ぞ知る事実である。

東北3県である岩手県の自殺率が全国よりも高いことは、県のよる特徴であるため、その影響を除するため、1990年を基準とした自殺率推移を示したのが図1である。そこでは、増田氏の在任中の岩手県政下では自殺が抑制傾向だったことがわかる。

私は渡瀬氏やPRESIDENTのように、データから恣意的な結論は導き出さない。

複数のデータとまともに比較することもなしに、恣意的に特定のデータを抽出・考察した今回のような記事が世の中でまかり通っていたら、間違いなくミスリードした世論形成を生んでいくだろう。

私は工学博士として、データをまともに分析もせずに世に出し、間違った印象を与えることは絶対に許さない。統計データというのは医師が健康診断結果を見るようなものである。診断ミスで医療事故が発生する。まともにデータが見られないのであれば、診察しないでいただきたい。

加藤拓磨
加藤拓磨 中野区議会議員

1979年、東京・中野区生まれ。中央大学大学院理工学研究科 土木工学専攻、工学博士取得。2009年、国土交通省に入り、国土技術政策総合研究所で、ゲリラ豪雨、防災・減災、地球温暖化による影響等の研究に従事。2014年、一般財団法人国土技術研究センターを経て、15年中野区議選で初当選。