自民・民進の負けて勝つ都知事選の敗戦処理は?

八幡 和郎

東京都知事選挙は、小池百合子優勢のまま投票日になだれ込みそうだ。最後にハプニングがあるとすれば、安倍首相が増田寛也、宇都宮健児弁護士が鳥越俊太郎の応援に現れることだったがそれもなかったし、あったとしても大勢には影響なかっただろう。

むしろ、小池陣営にとっての最大の不安材料は、意外に低い投票率とか、小池楽勝という見通しから上杉隆や桜井誠のような第四の候補者に入れる人が多くなるなど小池の票が予想外に伸びない場合だろう。 

組織を持たない候補者にはつねにつきまとう不安である。

そんなわけで、確実な見通しがあるわけではないが、いちおう、小池勝利を前提に、自民党や民進党が「負けて勝つ」ためにはどうすればいいかを考えて見よう。 

来年の都議会議員選挙にどう臨むか

その前提として大事なのは、①来年の6月に都会議員選挙が予定されている、②副知事人事をどうするか、③次の都知事選挙は2020年7月24日に予定される東京五輪の開会式の直前である7月11日か18日に行われるということだ。 

一般に知事と議会が対立すると、予算を伴うような新規政策はほとんどできなくなるが、その一方、現職知事は当選率が90%を超えており、小池知事が再選されることはほとんど確実だ(半年繰り上げるかどうかという問題はあるが)。 

4年任期の副知事の選任については、議会の同意がいる。舛添前知事は4人の副知事を辞職直前に任命しており、新知事はそのままにすることができるが、副知事のほうが辞職するかも知れないし、新知事が辞職を求めれば普通は辞めるものだ。そして、副知事人事を議会が承認せず空席となることは珍しくない。 

以上のような事情で、知事と議会が対立すると知事も困るし、議会も取っ替える見通しもないので、普通は議会の多数派が推さなかった候補が当選した場合も、折り合いを付けてなれ合いになり、次の選挙では与党となることが多いが、今回の経緯からすると簡単ではない。

小池新党はあるか?

普通には、小池氏が当選すれば、従来のように都政の細かいことに議会が介入することを拒否し、激しい対立が起きるだろう。そして、新知事は、来年の都会議員選挙に自分を支持する候補を刺客として立てることを臭わしながら交渉することになる。 

従来は、そうした場合、数人のみの刺客が普通だが、2008年に当選した滋賀県の嘉田由紀子知事は「対話の会」を立ち上げ公認4人、推薦8人を当選させ、与党化した民主党も取り込んで多数派を確保した。また、大阪で橋下徹知事が大阪維新を立ち上げて一気に多数派となったことはよく知られている。 

そうした、方向に一気に行くのか、自民・公明、さらには民進党まで与党化していくかは、これから激しい政争となるだろう。ただ、個々の議員にとって来年の選挙での刺客はかなり怖いはずで、新知事の立場は弱いものではない。しかし、それだけに、議会側は新知事のスキャンダルなどを探し回るだろう。

しかし、都民にとっても国民にとっても、これ以上、馬鹿らしい政争やスキャンダルの暴露合戦を繰り広げることを望まないはずだ。 

そうであれば、昨日、「小池の勝利は自民・民進にとって悪いことでない」という投稿に書いたように、改革指向の女性支持の誕生を、与野党いずれもが前向きにとらえ利用する競争をしたほうが好ましい。 

自民は石原・内田引責で活路を見いださないと大阪の二の舞 

自民党は、東京都連が本人のみならず親族が応援しても除名とか、官邸筋が小池氏もノーサイドは無理で除名だとかいったというが、馬鹿らしいことだ。だいたい、参議議院議員選挙で過半数を確保したとか、三分の二だとかいっているときに、わざわざ野党に追いやるのはありえまい。 

安倍首相は、街頭に立つことはせずに、ビデオメッセージを、増田陣営に贈るのに留めたが、内容も増田候補を誉めても、小池候補への当てつけがましい言葉はなかった。

選挙が終われば、石原伸晃都連幹事長や、内田茂幹事長が責任を取って辞めて、増田がベストだと思ったが小池でダメと言ってないと開き直れば良い。そこをうまくしないと、大阪の自民党が壊滅状態になった二の舞になりかねない。 

大都市の自民党ほど前近代的だ。だから、首相をねらうような政治家もなかなか出せない。とはいえ、都連も府連も地方のような利益誘導ができない苦しい枠組みのなかでもがいているので一方的な批判は気の毒なのであって、党本部も一緒に大都市の自民党組織はどうあるべきか、根本に遡って考えるべきなのだろう。

民進は共産党との協力の形態を最低でも見直すべき

民進党は、共産党も含めた選挙協力のあり方を根本に遡って見直すべきだ。ともかく、鳥越というスキャンダルを別にしても心身ともに激務に耐えられるはずもない低レベルの候補になぜ乗ったのかと言えば、共産党や極左系の諸団体から、連合東京、党内の保守派の議員まで乗れる候補を探すという無理が間違っているのである。

古賀茂明氏とか宇都宮氏では連合東京は増田陣営に加わっただろう。そこで、反原発も確信犯というほどでない鳥越で中立にしてもらったわけだが、民進党が最大の支援組織である連合の支持を得られない候補を立てることが尋常でない。 

私は欧米的な民主主義の党であるはずの民進党や社民党が価値観が違う現在の共産党と協力すること自体に賛成でないが、どうしてもというなら互いに候補者を出さない調整だけにして、肩を組んで仲間になるべきでないと思う。 

そうでないと、民進党の半分より中道寄りの人はみんな共産党から拒否されて駆逐されてしまうだろう。

昨日の繰り返しだが、私が民進党の代表だったら、「今回の選挙では候補者の選定に十分な時間を掛けられず、結果、候補者の健康状態などさまざまな面について十分なチェックが出来ず、本人にも支持者にも申し訳ないことになった。しかし、小池氏当選は必ずしも安倍政権や自民党的なものに国民が満足していないことを証明したともいえ、今後の参考にしたい」とでもいって照れ隠しをして小池与党化する。だいたい、民進党やなんと共産党の支持者の2~3割が小池支持なのだからそれでいいのである。 

小池氏が保守的な思想の持ち主であっても、それが全面的に支持されたとまではいえないのだ。これはあくまでも地方選挙なので、韓国人学校とか地方参政権の問題で公約を果たせば十分だろう。 

ただ、残念なことは、4野党の女性議員たちが、鳥越氏の淫行疑惑に甘すぎたことだ。宇都宮氏が「女性人権問題(週刊誌報道)について、こちらが要求したことと鳥越氏側からの回答が一致しなかった」、つまり記者会見を開いて自分で説明しなかったので、応援を断ったのは当たり前のことだ。 

これまで女性の人権問題において、さんざん国益を犠牲にしてまで強硬な態度を取ってきたのは何だったのかということだ。また、小池氏を支持しないまでも、一定の理解とエールを送らなかったことも残念なことだった。 

この負の資産のつけはかなり重いものになるだろう。