ソフトバンクの孫正義氏が43%以上のプレミアをつけ3.3兆円もの巨額で半導体設計の英国アーム・ホールディングスを買収した。アーム買収により、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」関連事業を拡大する計画だ。
スマホなど多くのモバイル機器に搭載されるCPUはアーム社の仕様に基づいている。
アーム社はCPUの設計に特化。低消費電力などを強みにスマホ向けのCPU仕様で業界標準を握る。設計した半導体のライセンス収入などをメーカーから受け取っているという。
だが、株式市場は毀誉褒貶、沸騰し、乱高下したが、どちらかと言えば下降気味で評価は下がっている。ソフトバンクの既存事業とアームの事業の相乗効果に乏しく、ソフトバンクが過去に手掛けた英ボーダフォン日本法人や米携帯電話子会社スプリントの巨額買収同様、リスクが大きいと見られているのだ。
そうした中で、湯之上隆氏のように「恐るべき孫正義、英ARM買収で『世界制覇』へ前進、ソフトバンクはIoT時代の寵児に」と全面的に拍手を送る識者もいる。
技術のわからない私自身は、正確な評価はできず、成否はわからない。今回の買収でソフトバンクの有利子負債は実に12兆円に達する。買収が大失敗に終わる可能性もある。
だが、孫氏の動きは貴重な投資活動と見ている。こうした投資家がいるからこそ、日本経済は拡大して行くと思うのだ。
かつてのホンダ、ソニー、そして現在のグーグル、アマゾン、アップル、フェイスブックの延長線上にソフトバンクが立っているのは間違いあるまい。
武者陵司氏によると、「(ゼロ金利下の今)企業は大儲けしている。しかし儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。先進国で顕著になっている金利低下は資本の『slack(余剰)』が存在していることを示唆している」。
今の日本企業は自己資本が豊富に存在しつつ、収益力も上がっている。金利が著しく低いから借金して儲けをふやすこともできるが、そこまでするほど事業機会が少ない。
通常のサラリーマン経営者では大幅なリスクをかけた巨額投資はてがけにくい、現状の儲けでもそれなりの価値があるのだ。それを上回る投資ができないので、資本の余剰が発生しているのが現状である。
IT(情報技術)により生産性が大幅上昇、企業は減価償却額をすべて再投資する必要がなくなっている。アップル、グーグルなどのリーディング企業は巨額の資本余剰を抱えることが常態化している、と武者氏は見る。
こうした中で借金を大幅に増やして巨額投資するソフトバンクのような企業は経済の新たな領域を開拓し、経済を成長させる上で貴重なのである。
湯之上氏のアーム事業への期待は大きい。IoT時代の今後、アップル、サムスン電子、クアルコム、メデイアテックなどのIt企業はアームのアーキテクチャ(設計思想)を使わざるをえず、「ARMの年間の税金収入(企業が税金のように支払うアームの収入)が年間1兆円を超えるのは時間の問題であり、買収価格3.3兆円などは、あっという間に回収できるだろう」と「超」がつくほど楽観的だ。
重ねて言えば、これに対する正確な判断力は私にはない。しかし、孫氏がアマゾンやグーグルのような事業を開拓し、携帯電話やスマホが登場したときのように、IoTによって新たなネット社会の根源を握ることができるとすれば、大層魅力的である。
安倍政権は今、財政投融資によって経済を再生しようとしているが、その成果はあまり期待しがたい。バラマキに終わる懸念の方が強い。
安倍首相の政治外交には期待しているが、アベノミクスにはあまり期待していない。その「大きな政府」路線は古い発想にとらわれている。
あえて言えば、現在の政府が「大きな政府」路線で必要なのは中国に対抗すべき日本独自の軍事技術の拡大である。だが、それへの検討はまだほとんど見られない。
民間経済は企業家を中心とした民間に任せるべきである。政治家や役人は無駄ばかり多く、いいことはほとんどない。