カナダの外国人だけへの不動産取得税は許されるのか?

バンクーバーを含むブリティッシュコロンビア州で8月2日から新しく外国人だけに課せられる不動産取得税が登場します。これはカナダ国籍ないし、永住権を所有していない個人が居住用住宅を購入する場合には15%の外国人だけの不動産取得税を払わねばならないというものです。突然降ってわいたようなこの新税というか珍税にこの一週間、バンクーバーは大きく振り回されました。

バンクーバーはカナダで最も高額な不動産の都市として長年君臨していますが、この数年の上昇具合は物件により年2割を超すものも散見され、一般庶民には全く手が届かない状況となっています。そのため、市民のみならずBC州政府等も「買いやすい住宅価格」の実現を求め、議論百出でしたが突然発表されたこの15%の外国人だけに課す税金はどうも腑に落ちません。

当地の新聞(バンクーバーサン)によれば8割以上の市民がこの税金を歓迎しているとしていますが、これが意味するものは英国のEU離脱やアメリカのトランプ氏支持と同じで、一種のアンチグローバリズムの展開であります。もちろん、英国やアメリカとは全く規模こそ違いますが、グローバル化により自分たちの生活が脅かされたり、将来的な安定を担保できない場合に突然、アッと驚くような展開を見せてしまうのです。

発表されてから施行まで一週間ちょっとということもあり今週は不動産取引が前倒しで相当おこなわれた模様です。一人のリアルターが一週間で22ミリオンドル(18億円)も取引したという話もありますし、私の顧客が売り出し中だった4億円程のコンドミニアムが突然売れ、金曜日にクロージングでした。そんなような話はごろごろしており、統計はとんでもない数字が出てくる可能性があります。

さて、この外国人税の背景は何か、といえば押し寄せる中国マネーで当地の不動産が暴騰したという一般社会の理解であります。確かに中国人のバイヤーは雪崩のごとく押し寄せ、一つの物件に10も20もオファーが入り、売り手の希望売り出し価格からいくら上乗せするかが落札のキーとまで言わた時期もありました。日本で中国人の爆買いが話題になっていた頃です。過去形の表現にしているのはその傾向は春頃から明らかに変わってきたのですが、州政府関係者には体感温度がなかったのかもしれません。

では私はこの税金の何が不満なのか、といえば明らかに差別的課税であり、国際的ルールから逸脱していることが明白であるからです。昨日、当地の不動産業界の大御所と話していた際、「僕はおかしいと思うが、どうだろうか?」と話を振ったところ彼も同意で週明けの新聞に記載される内容だが、と前置きしたうえで「これはNAFTAに違反している」と指摘しています。カナダ、アメリカ、メキシコで取り交わされている自由貿易協定には不動産の取引についても差別的待遇をしてはいけないという条項が入っています。唯一の例外は海沿いの土地。ここだけは外国人の取得を制限してもよいという例外規定がありますが、あくまでも国防上の理由です。

そもそもバンクーバーの不動産が上がったのは外国人が買い漁ったからではなく,当地の独特な事情がそうさせただけです。一つは増大する人口に対して開発可能用地が限られていること(山と海とアメリカ国境にはさまれています。)、開発許認可を管轄する役所が開発業者に寄付や施設建設のための重い資金負担を強要しており、それが販売価格に跳ね返っていること、建築的に北米でも最先端のデザインを取り込むため建築費が高騰していること、建築ブームで工期が延び、1年遅れは当たり前の状況にあることなどがあげられます。

開発許認可に対する開発業者の負担は例えば私が過去行った事業では64Mドル(51億円)(=戸当たり9万ドルぐらい)ありましたし、昨今の開発許認可申請費用は暴騰しており場合により申請料だけで数千万円から億近い費用となります。これらの費用が全部住宅購入者に跳ね返っているだけで中古住宅価格にもそれが反映されている状態です。

つまり、バンクーバーの不動産の価格高騰は外国人が不動産を漁るというより内政的問題が主流であって、例えば役所が開発業者に課す負担金を下げれば売り出し価格は相当下がります。たぶん、1-2割下げることはたやすいとみています。

が、それをすると既存の不動産所有者から価格が下がったというクレームが来ることでしょう。

国際的に開かれているはずのバンクーバーでこのような差別的税体系ができたことは地球儀ベースでの縮みあがる世界の流れを汲んでいるのかもしれません。非常に残念です。ちなみにこの15%の税金ができても不動産価格は下がらないはずです。理由は外国人が不動産価格を主導したわけではないからです。

世界の潮流の中とバンクーバーで起きていることがたまたま似たような状況にありましたのでご紹介させていただきました。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、みられる日本人 7月31日付より