日本原子力発電は、東海発電所によって、1966年に日本初の商業用原子力発電を開始した企業である。この東海発電所は、1998年に営業を停止し、現在は、廃止措置(廃炉作業のこと)の途上にある。同様に、敦賀発電所1号機も、昨年、運転停止し、廃止措置へ向かうことになっている。
現状では、東海第二発電所と敦賀発電所2号機を有するわけだが、原子力規制委員会は、その敦賀発電所2号機の下に活断層があると認定しているので、その廃炉は避けがたい情勢である。一つの原子炉を稼働(再稼働できればの話だが)させつつ、三つの原子炉の廃止措置を行う、これでは、もはや、会社の存立自体が困難になってしまいかねない。
日本の原子力事業にとっては、事業を継続するにしろ、しないにしろ、今後は、廃炉技術が極めて重要なものになっていくわけだから、この原子力発電の開始と終了の両面における開拓者としての企業の歴史は、貴重なものである。故に、技術者集団としての日本原子力発電の経験と能力は存続させなくてはならないのである。
仮に、脱原子力という国民選択がなされても、その完了には、極めて長い時間を要するのであり、安全なる脱原子力を実現し、かつ、その費用の合理化を図るためには、むしろ、逆に、高度な原子力技術の維持と発展をこそ、政治的課題とするほかないのである。
しかも、実は、論理的には、政府の原子力政策は、原子力発電維持の方向で決着しているはずである。なぜならば、政府機関である原子力規制委員会は、現に非常に活発に活動しており、原子力発電の安全性の強化と原子力事業の健全な発展に努めているからである。
このような活動は、脱原子力の方向では、無駄であり、あり得ないことである。原子力規制委員会の新規制基準のもとでは、大規模な改修費など、巨額な追加費用が発生するわけだが、その追加出費は、最終的には、電気料金なり税金の投入なり、最終的には、国民負担になる。その負担が発生した後で、結局は、脱原子力ということになれば、あまりといえばあまりに無駄なことである。
もしも、政策的に、脱原子力の方向なら、早急に、原子力規制委員会の目的を、安全な廃止措置に特化したものに、変更しなければならない。ただし、その場合でも、なお、高度な原子力技術の維持と発展という課題は、目的から外せないはずである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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