あらためて7月29日の日銀金融政策決定会合の公表文の内容を確認してみたいが、意外に注目すべきはタイトルにあった。今回のタイトルはタイトル「金融緩和の強化について」となっていたのである。日銀が過去に政策変更か、それに準ずるものを行ったときのタイトルは以下となっている。
2012年12月 金融緩和の強化について
2013年1月 「物価安定の目標」と「期限を定めない資産買入れ方式」の導入について
2013年4月 「量的・質的金融緩和」の導入について
2014年10月「量的・質的金融緩和」の拡大
2015年12月 当面の金融政策運営について(「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入)
2016年1月 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入
2016年7月 金融緩和の強化について
そして黒田総裁以前の追加緩和について例えば、2012年12月は「金融緩和の強化について」となっていた。これ以前の政策変更の際はほとんどが「金融緩和の強化について」となっていたのである。これはつまり今回の日銀の追加緩和は昔のスタイルに戻してきたということになるのではなかろうか。
今回の声明文の最初はいきなりこのような文面で始まっている。
「英国のEU離脱問題や新興国経済の減速を背景に、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場では不安定な動きが続いている。」
米国のダウ平均やS&P500は先週過去最高値を更新している。米国株の動きは国際金融市場の動向をみる上でひとつの大きな指標となると思われるが、これをどのように解釈したら良いのであろうか。27日のFOMCの会合後に発表された声明文では、労働市場が力強さを増し、経済活動が緩やかな速度で拡大していることを示していると指摘した。
どうやら日銀とは解釈が異なるようにみえる。しかも今回の政策変更は質・量・金利の三次元でみるとETFの買入拡大という質の変更だけに止まっている(企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置もあったが)。これについては、下記のようなコメントも出ている。
「政府は、大規模な「経済対策」を策定する方針にあるなど、財政政策・構造政策面の取り組みを進めている。日本銀行としては、今回の措置も含め「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進し、きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている。」
つまり政府の経済政策とコラボするために、しぶしぶながらも追加緩和に踏み切ったということにも見えなくはない。それも結果として黒田総裁がかつて否定していた逐次投入型となりあってかタイトルを昔の名前に戻していた。さらに今回は最後に下記のような文も加えられていた。
「海外経済・国際金融市場を巡る不透明感などを背景に、物価見通しに関する不確実性が高まっている。こうした状況を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととし、議長はその準備を執行部に指示した。」
この総括的な検証とはいかなるものなのか。総裁会見を見る限り黒田総裁のスタンスに変化はない。しかし、どのように説明しても量や金利に限界が近づいていることは確かであろう。そのためフレームワークを変えて、追加緩和が可能となる施策を考えてくるのではないかと予想される。
むろん総括なので、なぜ物価目標が達成できなかったのか、その理由説明も行われるものとみられ、その上での政策スタイルの変更が想定される。これは例えばヘリコプターマネーの推進とかは考えられない。ヘリマネは政府が決めるものであり、日銀が政府に対してこうしろああしろと言うことはできない。
それではそのフレームワークとはどのようなものとなるのか。それは今回のタイトルが示しているのではなかろうか。「金融緩和の強化について」というスタイルに戻すこと、それはつまりフレキシブルな対応、戦力の逐次投入型に変えてくるのではないかと思われるのである。
買入未達を引き寄せかねない国債買入の量の増額や、評判の良くないマイナス金利の深掘りは避ける格好で、買い入れる資産の社債なり、ETFなり、REITなり、もしくは他のものを含め(米国債は為替の問題があり除く)、今後の追加緩和については、日銀の言うところの「質」の強化を図るかたちでの逐次買入増額といったスタイルに変わってくるのではないかと予想される。
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