独メディアによると、トルコからドイツへの難民申請者の数が急増しているという。独日刊紙「ターゲスシュピーゲル」が連邦移民難民局(Bamf)の情報として報じたところによると、1月から6月の今年上半期のトルコからの難民申請者数は1719人で、前年1年間の1767人に近づいている。
Bamfによると、1719人中、トルコの最大少数民族クルド系住民が1510人で最も多いという。昨年1年間のクルド系難民数は1428人だった。トルコ国内の政情不安にもかかわらず、クルド系難民の認可率は5.2%と低い(トルコ人難民認可率は全体では6.7%だった)。
トルコからの難民申請者数の急増は、今年7月15日に発生したトルコ国軍の一部クーデター未遂事件とは直接関係ないが、エルドアン大統領の粛清政策が今後も続くと、政治難民が欧州に殺到するのではないかと予想されている(「トルコの政治難民が欧州に殺到?」2016年7月23日参考)。
クーデター未遂後、エルドアン大統領はクーデター蜂起の主体勢力は米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師だと名指しで批判し、米政府に同師の引き渡しを要求する一方、クーデター事件に関与した軍人らを拘束し、公務員を停職処分、教育関係者や報道機関にも粛清の範囲を拡大中だ。放送免許を取り消されたラジオとテレビ局・チャンネルは24に及ぶという。
トルコ政府筋が2日公表したところによると、5万8611人の国家公務員が停職となり、3499人が長期解雇された。同国内務省が3日発表したところによると、クーデター未遂で2万5917人が拘束され、容疑者1万4419人に逮捕状が出ているという。粛清された公務員や教育関係者、マスコミ関係者はギュレン師支持派と受け取られている。
ちなみに、独週刊誌シュピーゲルによると、アンカラの要請を受け、ドイツの研究所や大学で勤務していたトルコ人学者、大学教授が帰国したことが確認されている。
なお、オーストリアのケルン首相が3日夜、同国国営放送のニュース番組の中で、「トルコの欧州連合(EU)加盟は夢物語(Fiktion)に過ぎない」と指摘し、トルコのEU加盟は今後も考えられないと述べたことが大きな反響を呼んでいる。トルコ側はケルン首相の発言に激怒、対オーストリア関係の見直しすら示唆。EUの本部ブリュッセルは加盟国首脳の発言の反響を鎮めるために腐心し、ユンケル委員長は「EUとトルコの加盟交渉は進めている。加盟国首脳の挑発的な発言は非生産的だ」と述べている。
EUとトルコは昨年11月、トルコ内に収容された難民への財政支援を強化する一方、経済移民の流出入の抑制のために「EU・トルコ共同行動計画」で合意した。今年3月には、トルコからギリシャへの難民流入対策を柱とする「EU・トルコ声明」が公表され、EUとトルコ間の難民対策の連盟で一致したばかりだ。
EU側はトルコに対して財政支援のほか、トルコ人のビザ取得義務の免除などを約束したが、トルコでクーデター未遂事件が起きたことから、昨年11月の合意内容の履行の見通しが不透明となってきている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。