Flash Memory Summit(FMS)に参加するため、シリコンバレー(サンタクララ)に着きました。
FMSでは竹内研からはカーボンナノチューブメモリと、アプリケーションに最適化したSSDの発表を行います。
最近、竹内研のOBはシリコンバレーで働く人が増えてきており、OBたち4人と食事会を行いました。
こうして自分がかかわった人たちが、競争が激しくチャンスも大きいシリコンバレーで活躍しているのは嬉しい反面、なぜ自分はまだ日本に居るのだろう、とちょっと寂しくなる部分もあります。
まあ、自分ができない事を、教え子たちが実現してくれているのだから、これはこれで良いです。教師冥利に尽きる、というか。
それはさておき、お互いに近況を話す中で、ちょうど研究室では論文投稿の佳境になっているので、
「研究ができて、自分で技術を理解しているのに、他の人に伝える部分がまだまだという人が多いんだよね。それができないと論文が書けない。」
と言ったところ、OBたちから、
「自分も学生の時に散々、先生にそう言われた。伝えることはとても大事だけれども、それを身に付けるのは、大変でした。」
と言われました。
論文などで、自分の考えを表現し、相手に理解してもらうには、自分が技術をわかっているだけでは不十分なのです。
まず、伝える「相手」を知ることが大切。論文の場合は、査読者ですね。
査読者のスキル・バックグランド(専門分野など)を思い浮かべて、もし自分がこの人だったら、何を理解できるだろう?と考える。
そして、相手の立場に立って、相手が理解できる言葉で自分の主張を表現する。
研究や開発の主体は「自分」ですが、コミュニケーションの主体は「相手(論文の場合は査読者)」なのです。
ですから、自分が言いたい事をいくら主張したところで、相手のことがわからなければ、伝わらない。
こんなことは、いわゆる文系の仕事をしている方には当たり前のことでしょう。
ただ、理系で研究や技術開発をしていると、ともすると「自分」にこもりがちになります。これは必ずしも悪いことではなく、徹底的に自分で考えるからこそ、新しい技術のアイデアが生まれてくることも多いのです。
しかし、自分が作り出した技術を世に出し、広く認めてもらうためには、考え方のスイッチを「自分」から「相手」に切り替える必要があるのです。
この両方を最初からできる人は稀で、おそらく、ほとんど居ないと思います。
ですから、表現が苦手であっても、悲観する必要はありません。
OBたちと話をしていて感じたのは、彼らも最初から技術を生み出すことと、それを伝えることの両方ができたわけではありませんでした。
(私に散々言われながら?)伝えることの大切さを時間を掛けて学んでいったようです。
そもそも生み出した研究成果を相手に伝えられないと、論文が採択されないわけですが。
自分で技術を生み出すことができた人は、次のステップとして少しずつでも、伝えることを学んでいってくれたらと思います。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。