51ドルが天井か?

6月10日早朝、FTが “Oil group’s optimism shortlived as pressure mounted” という記事を報じている。サブタイトルが “With prices back down to about $45 a barrel, majors are reducing spending” となっているので、記事の中身はほぼ想像できる。興味のある方はぜひ原文に目を通していただきたい。

筆者が一読して気になったのは、Wood Mckenzie(ウッドマック)による今後のプロジェクトの採算分岐点(breakeven)に関する報告なるものだ。

FTは、ウッドマック作成の “Estimated breakeven price of oil” のグラフを呈示し、今後の新規立ち上がりプロジェクトがbreakevenとなる価格は、2014年時点の70ドルから19ドル低下し、平均51ドルになったと報じているのだ。

これが意味することは何だろうか。
将来、51ドルが天井になる、という意味だろうか?

FT紙面上のグラフをつらつら眺めてみると、それぞれの範疇に入る諸プロジェクトを、横幅を生産量、縦を最低コストと最高コストの幅とし、加重平均を点で示している棒グラフ状のもので、これらの諸プロジェクトの加重平均の総合平均が51ドルということだ。ちなみにこの加重平均点を結んだラインを「コストカーブ」と呼んでいる。

具体的には、たとえば「OPEC陸上」は生産量が50万B/D、最低コスト5ドル、最高コスト60ドル、加重平均コストは38ドル、米シェールオイルの代表「イーグルフォード」は生産量が200万B/D、最低38ドル、最高92ドル、加重平均が45ドル、カナダのオイルサンドは生産量が50万B/D、最低38ドル、最高74ドル、加重平均52ドルなどとなっている。

ということは、平均51ドルが適用されるのは、数量的には半分、すなわち650万B/D程度で、残りは51ドル以上になるということだ。

では、ウッドマックの報告から、将来の天井価格は読み取れるのだろうか?
気になって、FTが添付しているウッドマックの報告なるものを読んでみた。7月13日に発表されたフルレポートは有料で、別途手続きがいる。すぐに読めるのは要点のみで、おおむね次のとおりとなっている。

すでに埋蔵量が確認されており、あとは必要なコストや将来の価格見通し、さらには資金調達能力など経済性を考慮して最終投資決断(Financial Investment Decision=FID)をするかどうか、という段階のプロジェクトを「Pre-FID」と位置づけている。

ウッドマックは、今後の世界の石油需要増と、既存油田の生産量減少を補填する必要量を考慮して、2025年までに2,000万B/Dの新規供給が必要だが、現在Pre-FID段階にあるとみなされるプロジェクトが1,300万B/D分ある。そのうち、70%の900万B/Dが60ドルで経済的に成り立つ、としている。

900万B/Dの60%が米国のタイトオイル(シェールオイルはその一部)だ。
在来型の深海プロジェクトの中で、60ドルで経済性が成り立つのは20%でしかない。

なるほど。
51ドルが「天井価格」ということではなさそうだ。
『原油暴落の謎を解く』(文春新書、6月20日)の中で、リバランスが達成できたら「60ドル以上」まで上がる、と大胆な結論を書いた筆者としては、胸をなでおろす次第だ。
ホッ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年8月10日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。