【映画評】ジャングル・ブック

The Jungle Book
人間の赤ん坊モーグリは、生まれてまもなくジャングルに取り残される。黒ヒョウのバギーラから母オオカミのラクシャに託されたモーグリは、愛情に包まれながら、幸せに暮らしていた。だが、モーグリの前に、人間に対して復讐心を抱く恐ろしいトラのシア・カーンが現れる。自分の存在が、ジャングルと動物たちの脅威になると知ったモーグリは、ジャングルを出て人間の村を目指すが…。

 

動物たちに育てられた人間の子モーグリの冒険と成長を描く「ジャングル・ブック」。オーディションで選ばれたモーグリ役の子役以外、動物もジャングルの自然もすべてCGで描かれているというこの映画は、まさしく奇跡的な映像に満ちている。原作者であるラドヤード・キプリングは、インドで生まれたイギリス人で、果たして自分の故郷はどこなのか?と悩みながら育ったという。それが、モーグリが、ジャングルで動物たちと暮らすべきか、人間として人間たちの村で暮らすべきかと悩む姿に投影されているのだ。モーグリは、動物の仲間から離れ、ジャングルをさ迷いながら、さまざまな出会いと試練、冒険に遭遇するが、そこで学ぶのは、どこにいようとも自分らしくあれという生き方だ。1894年の原作だが“ありのままに”はここでも活きている。

自然の厳しさと生きていく知恵を授ける思慮深い黒ヒョウのバギーラ、惜しみない愛情を注ぐ優しいオオカミのラクシャ以外にも、自由でおちゃめなクマのバルー、魅惑的なニシキヘビ、猿人類の王など、キャラクターがとても魅力的だ。これがすべてCGだということを、見ている間はすっかり忘れるほど、生き生きとしている。さらにうっそうとしたジャングル、そこに差し込む木漏れ日、水しぶきをあげる滝に、ジャングルを包む紅蓮の炎など、モーグリの運命に寄り添うかのような自然描写のリアリティに目を奪われた。

本作は随所に歌が入るミュージカル風の演出だが、ディキシーランド風のジャズが使われるなど、魅力的な演出が施されている。動物たちの声を務めるのは、豪華な名優たち。私は吹替え版(こちらも豪華な布陣)で鑑賞したが、字幕版もぜひ見てみたい。
【80点】
(原題「THE JUNGLE BOOK」)
(アメリカ/ジョン・ファヴロー監督/ニール・セディ、(声)ベン・キングズレー、ビル・マーレイ、他)
(生命力度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。