米軍撤退と自主防衛
第3次安倍内閣が発足し、党内きっての保守派と目される稲田朋美氏が防衛大臣に抜擢された。憲法9条改正派であることはもちろん、日本の国家としての自立、核武装の検討、東京裁判史観の払拭まで掲げてきた人物だ。
来年1月、米大統領がトランプ氏に決まれば、在日米軍基地などを巡る日米安保体制はトランプVS稲田朋美(+安倍晋三)という、日本国内の一部のリベラル派にとっては悪夢のような顔合わせとなる。
よくよく考えてみれば、在日米軍や政府の対米従属を強く批判している一部リベラル派にとって、その人品骨柄はどうあれ、トランプ氏の言う「在日米軍撤退」そのものは本来ならば歓迎すべき事態であるはずだ。それでもリベラル派から、在日米軍に関するトランプ発言を歓迎する、あるいは利用しようとの声はあまり聞こえてこない。
一方保守派(特に日米同盟堅持派)は、在日米軍撤退・縮小の可能性をあまり現実的に考えていないように見える。「まさかトランプが当選するまい」「トランプとて当選すれば現実路線に向かわざるを得ないのだから、在日米軍撤退はいくら何でもないだろう」と。
しかし安全保障は最悪の事態を考えて備えておくべきだ。トランプ氏が大統領となり、在日米軍撤退実行し始めるその時が来たら、稲田防衛相はどう応じるのか――(おそらく外務省、防衛相はそうなったときの策を練っているだろう)。
保守派の中でも自主防衛を考える一部の人たちからすれば、こんなチャンスはないだろう。これまで「アメリカは結局日本からの復讐を最も恐れている。だから日本を自立させないし、改憲を許さないし、核も持たせない」としてきた「自主防衛できない理由(言い訳)」の大きな一角が、トランプ大統領の登場で崩れることになるのだ。
そこへ持ってきて稲田防衛大臣である。日米同盟は堅持しながらも、あくまでも日本が主体となった国防体制を整えるのに、これほどの好機はそうは巡ってこない。
アメリカの影響力は低下
もっと言えば、トランプ大統領が誕生しなかったとしても、アメリカの影響力の低下は避けがたい。すでに知られているように、オバマ大統領は「世界の警察官を辞める」と述べた。ヒラリー氏が大統領になったところで、アメリカが以前のように世界中に出張って警戒監視を行うような状況には戻らないだろう。
オバマ大統領はアジア・リバランスの方針を唱え、軍事面でもアジアを優先的に対処するとしてきたが、それでも南シナ海での中国の台頭を封じ込めることはできなかった。
すでにアメリカでは「オフショア・コントロール」戦略を唱える識者が増えている。論者によってその中身に多少の違いはあるものの、中国との直接的な衝突を避け、中国の経済活動を封じないようにしながらも、軍事面では中国の活動を第一列島線内に封じ込めるというものだ。
積極的にこの戦略を取っているというよりは、要するに軍事費の大幅削減を避けられないアメリカが、中国を抑え、アジアでの影響力を失わないためにアジア・太平洋地域の同盟国と連携しながら、ごまかしごまかし、中国暴発という最悪の事態が起きないようにうまくやっていくしかない、ということだろう。
では日本はどうするのか。
「9条・ファースト」もうやめよう
日本ではトランプ氏の唱える「アメリカン・ファースト」を「自国第一主義」であるとし、まるでエゴであるかのように批判する論調もある。だが自国の国益を第一に考えるのは当然のことで、アジア地域の安定にアメリカが寄与するのは何も日本のためではなく、それがアメリカの国益につながってきたからに過ぎない。
それを責めることはできないだろう。日本はと言えば、昨夏安保法制を成立させたが、これはあくまでも「日本が存立危機に至った場合」にのみ適用されるものだ。仮に東南アジアで有事が発生し、大混乱に陥っても、日本国という国家の存立に影響はない、と政府が判断すれば、自衛隊は何の動きも取ることはできない。安倍総理でさえ「集団安全保障による海外での自衛隊の武力行使はあり得ない」と言っているのである。
「ジャパン・ファースト」どころか、「9条・ファースト」を堅持しようとする日本に、アメリカの自国第一主義を批判する資格はない。
戦後、日本を守ってきた核の傘について、オバマ大統領は核兵器の先制不使用宣言を検討している。大統領が変われば方針も変わる可能性があるが、安倍総理はこれに反対する見解をアメリカ側に伝えたという。
中朝露と核保有国に囲まれている現在、唯一の被爆国として「もう二度と日本に核を落とさせない」ためにアメリカの核の傘に恃まざるを得ないのは事実だろうが、「自分の手を汚さずして恩恵だけ受けている」ようにも思える。トランプ氏が「日本も自分で核を持て」と言うのは、あながち暴言でもないのだ。
「トランプ大統領」が誕生するかはまだわからないが、氏の在日米軍や核に関する発言と、稲田防衛相という巡り合わせを日本(アメリカ、そして国際社会)の福音とするために、政府や防衛相には法整備を含めた自立した国防体制の構築に邁進してもらいたい。