どうする、築地移転問題?

上山 信一

マッキンゼー方式で中央卸売市場を調査した報告書があります。

これは05年から07年にかけて大阪市役所が当時の関市長を本部長として「市政改革本部」を置き、わたしが本部員(非常勤、のちに市政改革推進会議の委員長)となって調査した時の報告書です。

当時の大阪市は、今の東京都とそっくりでした。税金の無駄遣いが次々と露呈し、一部の議員の狼藉ぶりも報道されました。

そんな中で中央卸売市場の建て替え建設費を巡る疑惑が明るみに出ました。

全国の中央卸売市場は自治体が建て、運営していますが年々、取扱量がどんどん減っています(当時の数字では東京も大阪も年率マイナス4%ずつ減少)。産地からスーパーの物流センターに直行する荷物が増えているからです。

そんな中、大阪市は老朽化した市場を現地で建て替えた。しかし建設費が途中でどんどん膨れ上がったのです。

小池さんが「オリパラ費用が一丁、二兆と膨れ上がる。お豆腐じゃあるまいし」とおっしゃった、あれと同じ構図です。やれ想定外の作業が発生しただの安全対策を強化しただのいろいろな理屈で税金が消えていく・・。

市政改革本部ができたのは、建設工事が終わったあとでしたが、さっそく事業分析をし、今後改善策を考えた。もちろん途中経過も結果も全部情報公開をしました。驚いたのは、「蛍光灯一本の取り換えに3人もの職員がくる」といった仲卸業者の証言。それらをヒントに調べていくとすさまじい過剰人員、過剰コストの実態がわかったのです。もちろん担当局も問題意識はあった。それで途中からは一緒に合理化計画をたてました。

その時の分析調査レポートが先ほどのマッキンゼー方式の調査書です。
(ただし、これは私とマッキンゼーの元コンサルタント2名が確か当時は2万円程度の日当でせっせと東京から出張し、職員の皆さんに手伝ってもらってやった簡易分析です。マッキンゼーが企業に出す報告書はこれよりもっと精緻で大掛かりなものです)

その2年後、大阪府でも橋下改革が始まり、私は改革本部で職員と一緒に府の中央卸売市場の事業分析をしました。その報告書がこれです。

結果は大阪市とそっくりでした。やっぱり需要がどんどん減っている。過剰投資は禁物で合理化が必須。おまけに大阪の場合、市と府のそれぞれが「中央卸売市場」を経営している。

結果を見ながら橋下徹氏としみじみ、「こんなこと続けてたら大阪は破産しますよねー。あれもこれも施設は何でも府立と市立の二つあって、たいていどっちも赤字。府と市は統合しないと未来は絶対ないよねぇ」と語り合った。

しかし、すでに二つの卸売市場は投資が終わった施設ですから両方使い続けるしかない。そこで大阪府は民間委託に切り替え、合理化しました。

さて、築地の豊洲移転はどうか。昨日、顧問になったばかりでまだ何もわからない。
しかし、公開資料や報道を見ると、かつての大阪中央卸売市場と同じ問題が起きていると思われます。

だから「都民ファースト」の知事がいったん立ち止まろうとおっしゃるのは当然でしょう。
大阪市と同じく、当初の予定の3倍もの建設費がかかっている。税金の無駄遣いが起きている可能性は高いし、安全性の懸念もあるらしい。

情報公開がろくにされていないので何とも言えませんが、その隠ぺい体質だけでも怪しい・・。
役所には役所の言い分があり、公表されていない難しい事情もあるに違いありません。豊洲移転も巨額の建設費も議会が同意してきたわけです。

しかし、失敗も含めて都民に情報公開をすべきです。そして、一緒に悩むしかない。そのうえで今更ながら、現実にできる軌道修正策があればそれをやるしかない。それがなければ既定の路線のままということになるでしょうが、もしもそうなるにしても徹底的な情報公開が必要でしょう。

情報公開は魔女狩りではない。誰かを批判するのではなく、どうしてこうなってしまったのか、組織や運営の仕組みのあり方を見直すべきです。

優秀な都庁官僚たち、規則にのっとった仕事のやり方、議会での真摯な議論・・それをやってきたはずなのになぜ、こうなってしまったのか。

監視してこなかった過去の知事と議員の責任は重いと思いますが、そんな知事や議員を選んだ都民も反省すべきです。また職員も、議員も、情報公開を要求してこなかったマスコミも反省する必要がある・・ということになりそうな予感がします(あくまで予感でしかないですが)。


編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏のブログ、2016年8月17日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。