2020年代のライフスタイル

岡本 裕明

8月18日日経の「春秋」は興味深い内容でした。短いので全文、転写します。まずはご覧ください。

1974年、首相である田中角栄氏の肝煎りで発足したのが国土庁(現国土交通省)だ。時の内閣のメーンテーマを扱う場とあって、さまざまな役所が優秀な官僚を送り込んだという。その代表格であり、後に事務次官までのぼりつめた下河辺淳氏が、先日亡くなった。

▼国土開発の計画づくりに長く携わり「開発行政のドン」と呼ばれた。高速交通網の整備や工場の分散に熱心で、日本列島改造論に影響を与えたとされる。しかし後年にはこうも語った。「大都市、科学技術、自然への挑戦という20世紀型文明は行き詰まった。21世紀は小都市、文化、精神、自然との共生が議論されていい」

▼15年ほど前のインタビューでは、地方の未来についてこう提言している。新幹線より豪華寝台列車でゆっくり旅をしてもらってはどうか。豪華なホテルよりお坊さんの話を聴けるお寺が人気になる。売れ残った工業団地は地方移住の場に提供すればいい。10年後には、道路行政で優先すべき主役は車ではなく人になる――。

▼「開発のドン」というイメージとはいささか違う。鋭敏な感性と柔軟な発想で、時代の転換を読み取っていたのかもしれない。21世紀の国土政策は「人」が軸になるとの言葉も残る。震災復興、防災、地方創生、高速鉄道建設と、今また国土の未来に関心が集まる。下河辺氏の思索の軌跡を、もう一度たどり直してみたい。(転載以上)

役人は時として三歩ぐらい先を読むことも多いものです。1986年のシルバーコロンビア計画はNASAの宇宙ロケットプロジェクトのような名前ですが、実は通産省(当時)が老後は物価の安い海外でのんびり暮らす移住のススメをしたプロジェクトであり、スペインやポルトガルがその対象でありました。

私が勤めていたゼネコンでもポルトガルのリスボン近く、シントラという実に美しい街にそれら富裕層向け住宅を造りましたが確か、元外交官の方がシルバーコロンビア計画を忠実に実行し、ご購入いただいた記憶があります。逆立ちしても日本の普通の老後を過ごすには住環境があまりにも違いすぎ、外交官氏のような半ば文化人的思想を持っていないとあれを快適とは言うのは無理があるでしょう。しかし、その思想は今ならばまた違った感性で受け止められるかもしれません。先読みしすぎたのでしょうね。

実は上述の下川辺氏がかつて新幹線より豪華寝台列車の旅行と発言した記事は覚えています。なかなか、面白いことを言うな、と思っていましたが、日本では現在、豪華寝台列車の旅の予約は取れないほどの人気です。

今、日本ではリニア新幹線の工事が始まっており、政府は大阪延伸を加速するため、安倍首相が援助の手を差し伸べるとしています。何年か前、私はこのブログで日本に本当にリニアが必要なのか、と書いたところ、技術を追求するにも新たな挑戦をするにも必要である、とコメントされていたと思います。

個人的には2027年の世界において人が40分で名古屋に着く価値観があるかは疑問視しています。新幹線はビジネスマンに欠かせない移動の手段であり、タイムイズマネーの世界でリゲインを飲み続けて頑張るバリバリのファイトマンには嬉しい話ですが、それまでにはIT化の進歩でビジネスシーンにおいて人間が移動する必要性はもっと減っていくと思っています。

但し、リニアを輸出産業用の技術の基礎育成と実践として進めるのはもちろん結構です。また、震災が多い日本において大動脈のバックアップも必要です。

香川県高松市はかつて市街化調整区域だったエリアを調整地から外し、道路と住宅開発を進めました。この都市計画には愕然としました。本四架橋ができたことで本州へ人口流出が起き、ただでさえ四国の玄関口としての機能が弱まっていた中で市街化の開発を進めたことで都市が薄く広く拡散してしまいました。理想的な都市育成は一定の人口密度とそれに伴って生まれるコミュニティが作り出す人間関係であります。が、高松市は田んぼを潰し、道路を作ったのです。街の中心にあった日本有数のアーケード商店街はこれで完全に息の根を止められました。実に残念な施策だったと思います。

日本はそれでも1億2000万人の人口を擁していますが、今後、コミュニティ化が進むとみています。つまり、フェイスブックのような繋がりの中で小さいな世界があちらこちらで生まれ、それが細胞結合のように連結する世界です。ビジネスもマクロを狙う大企業に対して地域密着型の新型ビジネスがもっと勃興するとみています。つまり、1000人とか1万人といった狭い商圏にITと人間チックな密接感が融合したスタイルです。

人々は金儲けから働く喜び、所属する喜び、助け合う世界をもっと求めていく世界をより好む方向に進んでいます。日本人ほど金に執着しない人種も少ないのですが、その行きつくところは「仏門に入る」ではないですが、利他の心になると思っています。

鈍行列車の窓開けて冷凍ミカンにワンカップを飲むシーンがふと頭をよぎるのは人がそういう「良き日の思ひ出」をやっぱり求めているのではないでしょうか。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、みられる日本人 8月21日付より