“ヘッドハンター”や“ナチハンター”という表現は聞いたことがあったが、東欧諸国で“難民ハンター”という言葉が飛び交っているという。簡単に説明すれば、不法に国境入りした難民、移民たちを見つけ、警察に報告したり、時には国外に追っ払う人々をさす。彼らは国境警備隊や正式の警察官ではなく、あくまでもボランティアだ。
東欧諸国の難民ハンターは主にネオナチや極右活動家が多い。彼らは外国から殺到する移民や難民に対して排斥傾向が強い。誰に強いられなくても、報酬がなくても難民ハンターとして従事する人々だ。
シリア、イラク、アフガニスタンから昨年、多数の難民がトルコ、ギリシャからバルカンルートで欧州に殺到した。ここにきてバルカン諸国では国境線の監視強化、壁を設置して難民の殺到を阻止してきたが、不法密入国斡旋業者の助けを受けて入国する難民、移民は絶えない。そこで不法入国者を見つけ出す難民ハンターの登場というわけだ。
誤解を避けるために説明するが、紛争中のシリアなど中東から逃げてきた難民に対して、国際社会は難民としての権利を保証しなければならない。ジュネーブの難民条約に合致する彼らに保護を拒否し、追放することは国際法に違反する。その意味で、難民ハンターは本来、非常に誤解を呼ぶ名称だ。
軍でもなく、警察にも所属しない人間が治安問題に関与し、一種の公権を振るうことは基本的には違法だ。しかし、不法な難民、移民の増加、犯罪の急増もあって黙認する東欧諸国が少なくないのもまた事実だ。
民間治安部隊のパイオニアは、2007年8月、ハンガリーの極右政党「ヨッビク」が設立した「マジャール人警備隊」だろう。そして現在、ブルガリアの難民ハンター、さらにスロバキアでは極右政党「国民党・われわれのスロバキア」(LSNS)が主導する「市民防衛隊」だろう。
ここでは「市民防衛隊」についで、独週刊誌「シュピーゲル」電子版(19日)から少し説明しよう。「市民防衛隊」は主にLSNSのメンバーだ。彼らはホロコーストを偽りと主張し、ヒトラーに関する批判を信じない。また、イスラム教徒を中傷誹謗し、少数民族のロマ人(ジプシー)を罵倒する。彼らは列車内で不法な外国人、移民、難民を見つけ出すと追放したり、警察側に連絡を取る。
「市民防衛隊」が結成され、列車内の治安を監視するようになった契機は今年4月はじめ、1人の若い女性が列車内で襲撃されるという事件が起きてからだ。LSNSが作成した「市民防衛隊」プロパガンダ用ビデオによると、切符をもたない若いロマ人の男性が列車から引きずれ落とされるシーンが見られる。
LSNSは3月の総選挙で議席獲得に必要な得票率5%をクリアし、最終的には8%を獲得した。国民から「市民防衛隊」の活動で苦情が聞かれたが、政府はこれまで具体的な対策を講じなった。しかし、政府もここにきてようやく対策に乗り出してきた。
ルチア・ツィトナンスカ法相( Lucia Zitnanska、「キリスト教民主派政党MOST-HID」所属) は17日、「わが国はこれまで久しくネオナチの活動を黙認してきたが、ネオナチ活動を取り締まる法体制の整備が急務となってきた」と述べ、国内の過激派、ネオナチ対策の強化を明記した関連法改正案を議会に提出している。その中には、LSNS主導の「市民防衛隊」の廃止も含まれているという。
それに対し、LSNSのミラン・ウーリック副党首は、「この秋から『市民防衛隊』の活動を拡大する」と通告している。
難民ハンター、「マジャール人警備隊」、「市民防衛隊」など東欧で見られる極右、ネオナチ系グループが主導する民間警備部隊の台頭は、殺到する移民、難民、外国人に対する国民の不安が反映しているからだろう。
東欧だけではない。オーストリア最東部のブルゲンランド州では増加する犯罪に対応するため市民の間で自主的な夜警団が生まれている。自身の安全は国境警備隊や警察官に任せておけないという理由からだ。同時に、同国では武器購入件数が増えてきている(「オーストリア国民は武装化する」2016年3月5日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。