ジャクソンホールが注目される理由

8月25日から27日にかけて米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場参加者にとり大きな注目材料となっている。

ジャクソンホール (Jackson Hole) とはワイオミング州北西部に位置する谷のことを意味する。

これには著名学者などとともに、日銀の黒田総裁など各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものとなっている。

なぜこのようなシンポジウムが、ワイオミング州ジャクソンホールという小さな街で行なわれるかといえば、FRB議長だったポール・ボルカー氏がフライ・フィッシングの趣味があり、この街を良く訪れていたお気に入りの場所であったからという説がある。

ロシア危機とヘッジファンド危機に見舞われた1998年に、当時のグリーンスパンFRB議長がこのカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの合間に FRB理事や地区連銀総裁とひそかに接触し、その後の利下げの流れをつくったとされている。

1999年には日銀の山口副総裁(当時)と、バーナンキ・プリンストン大学教授(当時、のちのFRB議長)が、日本のバブルに対する日銀の金融政策の評価をめぐり、論争を行ったことでも知られる。

さらに2010年8月27日にはバーナンキ議長(当時)がQE2を示唆する講演をジャクソンホールで行った。このシンポジウムに出席していた白川日銀総裁(当時)は予定を1日に早めて急遽帰国し、8月30日の9時から臨時の金融政策決定会合を開催し、新型オペの拡充策を決定している。

ジャクソンホールでの発言が今後の金融政策の方向性を示唆することがあるのに対し、ここでの発言があまりに注目されるためもあって、本来なら出席してしかるべき人が今後の金融政策の方向性の言質を取られないようにするためなのか出席しないケースも多くみられた。

今年のジャクソンホールには、昨年は欠席したイエレン議長は出席し、講演も予定されている。日銀の黒田総裁も出席するようである。

今回のイエレン議長の講演では、先日のフィッシャー副議長のように米経済が既に金融当局の掲げる目標の達成に近づいており、成長が今後勢いを増すだろうと述べ、これまでの姿勢に変化がないことをあらためて示すものと予想される。ニューヨーク連銀のダドリー総裁のように9月20、21日のFOMCで利上げを決定する可能性はありうると指摘するようなことはないとみられるが、9月の可能性も否定はしないとみられる(ただし質疑応答は予定されていない模様)。

黒田総裁からはどのようなかたちでコメントが伝わるのかはわからない。総括的な検証が公表されるのが9月20、21日の金融政策決定会合においてとみられるが、いまのところ総括の内容はまったくわからない状態となっている。その進展について黒田総裁に連絡は伝わっているとしても、まだまとめている最中ではないかとみられる。日程からみて総裁・副総裁あたりには来月に入ってから叩き台が示されて、それを修正後、今度は政策委員にも示されここでも協議が進められるのではなかろうか。これもあくまで推測ではあるが、そうとなればいま黒田総裁が総括の内容を持ってジャクソンホールに向かうことは考えられない。このため追加緩和を含めて、黒田総裁から発せられるコメントはこれまでの延長線上にあるものと予想される。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。