高畑裕太容疑者が「発達障害」という安易な言説 --- 田中 紀子

寄稿

衝撃が走った「高畑裕太 強姦致傷事件」ですが、このあまりに理解しがたい事件を、なんとか理解しようと、マスコミやネット上で原因や理由が様々に推測され取りざたされているうちに、現在では「発達障害」というキーワードが飛び交っており、大変憤りを感じております。

強姦致傷は、重大な事件であり、安易に原因を結びつけ、憶測で語るものではありません。
まして「発達障害」は多くの方がその症状に悩みながらも、病気と折り合いをつけながら、社会生活を送っていらっしゃいます。

そして「発達障害」と一口にいっても、その症状は様々です。
誤解や偏見を呼ぶような報道や発信は、どうか控えて頂きたいと、切に願う次第です。

この事件、お母様が有名女優さんであり、その方が、歯に衣着せぬ言い方で、息子さんのことを、「子供のころから変わっていた」と様々なエピソードを、テレビで語っていたことから、このような発信が多数見受けられることとなったのかと思いますが、だからといって、この事件の原因となるかどうかは、まだ何も分かっておりません。

また、「やまゆり園」の事件でも「大麻」や「措置入院」という言葉が、何度もキーワードとして取り上げられましたが、このような不可解な事件では、原因は一つに絞られるものではなく、様々な要因が重なっていると思われます。

ところが人間は、自分の思考の中で理解不能な出来事に出合うと、すぐに落としどころを見つけようとし、理解できる原因を探してしまうようなのです。

それは人間の習性として仕方がないとしても、少なくともマスコミの皆さんは、その人間の習性をふまえた上で、「安易な原因探しの報道は控えよう」と心がけて頂きたいと思います。

今回の高畑容疑者の場合、いわゆる「空気が読めない」行動を、テレビ局が面白がり、またそれを「大物」とあおってきたことは否めません。

そして、少々変わっている親子関係についても、それを個性的受け止め、様々な番組で面白おかしく報道されておりました。

それが悪いこととは思いませんが、今度は手のひらを返したように、「変だと思っていた」「発達障害では?」と、急に方向性を変え、今まで好意的に取り上げていたものを原因と結びつけ「過去の様々な危ういエピソード」「奇行が目立っていた」などと報道されることを見るにつけ、その安直な報道姿勢が、現代の偏見を増長させているのではないかと感じます。

また、こうした安易な原因探しから、誤解を受け、今度は「なんでも病気のせいにするな!」という批判が始まり、日本の再犯防止策は遅々として進みません。

原因は一つではなく、様々な要因があり、もしその要因の一つに「発達障害」がある可能性があるのであれば、必要な診断を受け、その後、適切な支援に繋げるべきと考えます。

こういった要因に対し、支援を与えていくことは、決して罪を逃れるためでも、言い訳でもありません。むしろ罪を償った上で、必要な支援に繋げることこそが、真の再犯防止策と言えるはずです。

そしてこれからは、マスコミ、ネットメディアの皆様には、「罪を償うこと」と「必要な支援を与えること」は、相反するものではなく、同じ方向を向いているものなのだと、社会の理解を促すような報道を発信して頂けるよう、ご理解、ご協力を頂けたらと願っております。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年8月26日の記事を転載しました(見出し、本文の一部をアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。