【映画評】アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)

UN + UNE

フランスの人気作曲家アントワーヌはボリウッド映画の音楽を手がけることになり、インドへとやってくる。パリに恋人を残してきたアントワーヌだったが、フランス大使館主催の晩さん会で大使の美しい妻アンナと出会う。愛する夫との間に子供を授かりたいと願うアンナは、伝説の聖母アンマに会うためにインド南部の村まで旅に出ることに。アントワーヌもまた、アンナを追って2日間の旅に出発する。エキゾチックで美しい風景の中、共に旅をする二人は、互いに惹かれあっていくが…。

恋愛映画の傑作「男と女」(1966年)の名匠クロード・ルルーシュ監督が、大作曲家フランシス・レイと再びコンビを組んで放つ大人のラブトーリー「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード) 」。これは続編? 姉妹編? いや、やはり新しい大人の恋愛映画だ。クロード・ルルーシュ監督は1937年生まれなのだが、その感性は昔と変わらずみずみずしい。お互いに愛する人がいるのに、どうしても惹かれあってしまうアンナとアントワーヌ。理性を保つ二人は決して激情に走ったりはしないが、あふれる思いは抑えることができない。

ドライでクールなイメージで魅了した「男と女」も素晴らしいが、本作のちょっとユルく軽やかなムードは、やはり異国情緒あふれるインドという風土が作ったものだろう。抱きしめることで相手に癒しと希望を与えるインドの聖母アンマ。実際のカップルに実話を演じさせるモノクロのアート系インド映画「ジュリエットとロメオ」。無名の役者時代に、イタリア映画「あんなに愛しあったのに」の製作現場で出会った女優と恋に落ちたというアントワーヌの父のエピソード。どれもが洒落たスパイスのように効いている。それでいて、アンナがアントワーヌの部屋に押しかけて関係を迫るという願望をさらりと映像化したり、アンナと夫が初めて出会う“いたずら”が繰り返されたり…。ルルーシュ監督、完全に肩の力が抜けた楽し気な演出だ。これがベテランの余裕というものかもしれない。

さて、アンナとアントワーヌの恋はいったいどうなる?!その答えは、映画を見て確かめてほしい。1966年「男と女」の肌寒いドーヴィルとは対照的に、2015年「アンナとアントワーヌ」の温かいインドの空気は、パリに戻ってからとびきりの再会を用意してくれているのだ。とても素敵な贈り物を添えて。
【65点】
(原題「Un + Une」)
(フランス/クロード・ルルーシュ監督/ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバート、他)
(軽やか度:★★★★☆)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年9月4日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより編集部で引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。