保育業界最大手の労働基準法違反について

駒崎 弘樹

こんにちは、子育て支援NPOの代表なのに、我が5歳の娘を叱った時に「キモイおっさんめ」と言われた駒崎です。

保育業界リーダーが労基法違反という衝撃

今月2日、保育業界大手・JPホールディングス傘下の株式会社日本保育サービスの運営する横浜市の保育園に対し、横浜南労働基準監督署より、労働基準法違反の是正勧告が出されたと発表されたことが、NPO法人POSSEの今野代表のブログで報告されました。

大手保育園で横行する労働基準法違反 辞める前に行政を動かそう
http://bylines.news.yahoo.co.jp/konnoharuki/20160903-00061805/

(株)日本保育サービスに残業代未払いで行政指導 会社に対し介護保育ユニオンから改善要求を出しました
http://kaigohoiku-u.com/report/nihonhoikuservice-zeseikankoku/

当ブログでは、アスク保育園を展開する日本保育サービスのある園で、
・残業時間のカウント方法が労働基準法に準じておらず、サービス残業があった
持ち帰り残業があり、残業としてカウントされなかった
ということがあったと主張しています。

保育業界から去る保育士たち

また、当の保育士達は以下のような状況になっているそうです。

実は、Aさんも、Bさんも、劣悪な労働環境の中で、健康を害し、新卒で入社してから1~2年で保育士を退職せざるを得なかった。ふたりとも、小さなころから保育士の先生にあこがれ、短大で保育士の資格を取り、入社の時には夢の仕事につけたことをとても喜んだという。しかし今、二人とも言葉をそろえて言う「保育士として働くのは怖い」
(強調は筆者による)

日本保育サービスに対しては、残業代未払いについて労働基準法第37条違反の是正勧告が出されており、会社は一部の未払い賃金支払いをすでに行っている」ということなので、事案自体は収束していると思われますが、こうした状況はゆゆしきものです。

というのも、今、保育士不足がかつてないほど深刻化している中で、こうやって保育士資格を持った若者達が、その企業を辞めるだけにとどまらず、保育士そのものを断念し業界から流出してしまうのは、ものすごく大きな損失だからです。

業界全体にはびこる長時間労働

保育士がいなければ、当然保育園はつくれません。そうすると、保育園に子どもを通わせたくてもできず、職を失う、諦める親達が続出するのです。今は、給与を上げられるよう政府の補助制度を変革し、現場では働きやすい職場をつくり、さらに保育という仕事の素晴らしさを世に広めることで、一人でも多くの人たちに保育士になってもらわなければいけない。そういうタイミングです。

その中で、業界最大手という、ある意味で社会に範を見せなくてはならない存在が、こうした動きに逆行する行いをしているというのは、同じ業界にいるものとして本当に悲しくなります。

一方で、これは日本保育サービスだけの問題ではありません。業界全体として、保育士達の子どもへの愛情と仕事への真摯さにフリーライドし、サービス残業当たり前、持ち帰り仕事当たり前の職場を当然のものとしている、というところはあります。

保育士の働き方は変えられる

「綺麗事言うなよ。持ち帰り無しで、行事なんて回せるかよ。ただでさえ人手も少ないんだし」という声も聞こえてきそうです。確かに保育園は慢性的な人手不足に悩まされ、一人当たりの仕事も多いので、自然と残業や持ち帰りも多くなるでしょう。でも、それは運命で、絶対に変えられないのか。

そんなことはありません。現にフローレンスのおうち保育園http://www.ouchi-hoikuen.jp/では、長時間労働から脱することができました。おうち保育園の保育士一人あたり平均残業時間は、月7時間。1日でいったら、21分ですほとんど残業はないですし、残業代を払わない、いわゆるサビ残はゼロです。そして、持ち帰り仕事はゼロです。年間休日も129日ですし、育休取得率は男女共に100%です。

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こうしたことが功を奏して、定着率は89.2%になりました。裏を返せば離職率10%ということです。ちなみに業界の離職率は3割程度と言われていて、ひどいところだと1年で半分くらい入れ替わる園もあります。

保育園の働き方革命・その方法

ではなぜ、こんなことができるようになったのでしょうか?答えは実は、ものすごく地味で当たり前のことをしたのです。例えば残業の原因になる行事やイベント、制作物に関しても、「そもそも何でやるの?」ということを考え直しました。本当にやる意味があるのか。あるとしたら、その形がベストなの?ということを考え、大人のためだったり、本人達のこだわりのためだけだったりするものは、やらないようにしました。

また、休みに関しても、複数園に1人ヘルプマンというフリーの保育士を配置することにしました。法定配置数ギリギリ、あるいは現場で要請された保育士数ギリギリで園を回すと、保育士が休むことはとても難しくなります。休んだ瞬間に、他の人たちがカバーしなくてはいけないからです。しかしそれでも急な休みや体調不良などは発生します。すると仕事量が増え、それが長時間労働や持ち帰りにつながります。

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余剰人員を抱え、各園で空いた穴を埋める形を取っていけば、突発の休みにも対応でき、それが長時間労働を防止します。また、休みやすい職場をつくることができるのです。

参考:【フローレンス流休暇を取りやすくする仕組み】ヘルプマン座談会を開催しました!
(前編) http://bit.ly/1MezURx
(後編) http://bit.ly/1LIqelT

まとめ

こうした、どの園でもある程度実践できることを当たり前に実践していくことで、保育業界の働き方を変えていくことは十分にできると私は思います。いや、この保育士不足の中、働き方改革なくしては、保育業界の未来はないと言っても良いでしょう。

最大手の日本保育サービスの労働基準法違反事件を他山の石として、業界全体として働き方を変え、保育士達が幸せに働ける労働環境をつくっていくこと。それは政府に対し保育士給与向上を訴えると同時に、我々保育事業者が絶対にやっていかなければいけないことでしょう。この両輪を回し、保育士不足を克服し、待機児童なき日本を実現していかねばなりません。

最後に。保育園で子どもの笑顔をつくるのは、笑っている保育士です。疲れて苦しむ保育士ではない。そうではありませんか?


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2016年9月4日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。