北朝鮮にCTBT加盟を強く要請

ウィーンに暫定事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のラッシーナ・ゼルボCTBTO事務局長は9日、北朝鮮が同日午前9時半(現地時間)、5回目の核実験を実施したことに対し、「国際監視システム(IMS)の25カ所の地震観測所が不自然な地震を探知し、そのデータをウィーンに送信してきた。地震の規模は今年1月6日の4回目の核実験より少し大きい。場所は前回の核実験所とほぼ同じだ(豊渓里付近)」と指摘、CTBTOの最初の分析では核実験の可能性が高いと主張し、「専門家が目下、送信されたデータを分析中だ。詳細な分析結果が分かり次第、加盟国に報告する」という報道声明を公表した。

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▲記者団の質問に答えるゼルボ事務局長(中央)(2016年9月9日、ウィーン国連内で撮影)

ゼルボ事務局長は、「北は核実験を中止し、加盟国183カ国と同じようにCTBT条約に署名、批准するように」と強く要請する一方、国際社会に向かっては「CTBTの早期発効を促す最後のウェイク・アップ・コール (final wake-up call)となることを期待する 」と訴えた。

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▲北の核実験に関する加盟国対象の技術関連ブリーフィング(ウィーン国連の理事国会議場で、2016年9月9日、撮影)

北朝鮮は過去4回、核実験を実施した。同国は2006月10月9日、初の核実験を実施した。その爆発規模は1キロトン以下、マグニチュード4・1(以下、M)、2回目(09年3月25日)の爆発規模は3~4キロトンでM4・52、3回目(13年2月12日)は爆発規模6~7キロトン、M4・9だった。そして今年1月6日の4回目は核実験周辺ではM4・8の地震波を観測している。韓国政府側は「今回の核実験は過去最大規模」と分析し、M5・0から5・3の揺れで、爆発規模は10キロトン以上と推定している。

CTBTが1996年9月に国連総会で採択され、署名開始されて今年で20年目を迎える。CTBT機関準備委員会暫定技術事務局があるウィーンの国連で「CTBT20周年閣僚級会合」が6月13日に開かれたばかりだ

CTBTは今年9月現在、署名国183カ国、批准国164カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていない。米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの5カ国は署名済みだが、未批准。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は署名も批准もしていない。

「核なき世界」を訴えるオバマ米大統領はCTBTを批准し、世界の模範となりたいところだが、上院で共和党の反対を受けてまだ批准を完了できずいる。米国の出方を伺っている中国はここ数年、「議会で検討中」というだけで批准していない。安保理常任理事国2カ国が未批准という現実がCTBT発効を阻止する最大要因となっていることは疑いがない。

CTBTの最大の魅力は世界の全地域を網羅するIMSだ。IMSは単に、核実験監視の目的だけではなく、津波早期警報体制など地球環境問題の監視ネットとして利用できるからだ。IMSの利用は既に始まっている。核爆発によってもたらされる地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動をキャッチするIMSは337施設から構成され、現在約90%が完了済みだ。

ちなみに、爆発が核実験だったと断言するかためには放射性物質キセノン131、133の検出が不可欠だ。水爆実験の場合、実験直後、ヘリウム3が放出されなければならない。CTBTOは核爆発を検証する機関であり、核爆発がウラン核爆発によるものか、プルトニウム核爆発かを判断する権限はない。それは加盟国が独自に検証する問題となる。

なお、北の朝鮮中央通信(KCNA)は同日、「新たに開発した核弾頭の威力を判定するための核爆発実験を実施した」と報じた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。