日銀の黒田総裁は5日の講演で、「例えば国債の引き受けや財政ファイナンスのように、「法律的にできない」あるいは「やるべきではない」という意味での限界は存在します。」といわゆるヘリコプターマネーについて明確に否定している。
また8日のECB理事会では、ヘリコプターマネーや、スイス国立銀行と日本銀行に続いて株式を買い入れる可能性について、25人の理事が意見交換しなかったことを明らかにした。
そもそもヘリコプターマネーと言う言葉を俎上に載せること事態がおかしいと言わざるを得ない。日本史ばかりでなく世界史を見ても、ヘリコプターマネーの悲劇は過去何度も引き起こされている。
9日の日経新聞の経済教室「財政・金融政策の行方(下)破綻回避、魔法のつえなし」では慶應義塾大学の櫻川昌哉教授は18世紀初頭のジョン・ローを引き合いに出して、ブルボン王家の財政危機に自らの貨幣理論を売り込みフランス財政を壊滅的な状態に陥れたことを指摘している。
またジョン・ロー以来「貨幣を刷ればいいんだよ」「国債の元本は支払わなくていいんだよ」と時の権力者にささやく経済顧問がしばしば現れ、権力者もまた錬金術師の甘言にひっかかってきたとの櫻川教授の指摘もあった。
7月のバーナンキ前FRB議長も巻き込んでの日本におけるヘリマネ騒動は権力者にささやく顧問が仕掛けていたのではなかろうか。さすがにその騒動もここにきて下火になったが、当然と言えば当然ではある。それでは櫻川教授が例に出したジョン・ローが行った政策とはどのようなものであったのか。
スコットランド人のジョン・ローは、フランス王立銀行の設立に寄与し、1717年にフランス領ルイジアナミシシッピー金鉱開発を目的としたミシシッピ会社を設立する。その後、フランスの東インド会社や中国会社を併合し、造幣局そして中央銀行の王立銀行までも傘下に収めた。
新会社はルイ14世が生み出した総額15億ルーブルもの政府債務をすべて肩代わりする。新株発行の払込については国債を額面の2割で引き取ると発表し、払込については4回の分割払とし最初の1回だけ現金、残りの3回は手形とした。これらのプロジェクがミシシッピ計画と呼ばれた。 国債そのものや手形で新株が購入され、1720年に政府の全負債はこの会社に移り、フランス国債の保有者はこの会社の株主となった。政府は多額の債務返済を一時的に免れ、債務免除されたような状況になる。
さらに王立銀行の株式払い込み手形を貨幣として機能させ、金貨が紙幣へと置き換えられた。ミシシッピ会社の株が値上がりすると紙幣を増発され、これにより資産バブルが発生、未曾有の投機ブームが起こる。当初500ルーブル以下であった株価は1719年後半には2万ルーブルを上回るまでに上昇した。ところが1720年に入り投資家が売却益を得ようと売りが殺到したことから株価は急落した。さらに払込手形という紙幣を金に替えようと王立銀行に人が殺到した結果、ローは払込手形の金との互換性を失効させる宣言をし、ミシシッピ計画は破綻し、フランス財政を壊滅的な状態に陥れたのである。このミシシッピ計画の破綻はフランス大革命のひとつのきっかけになったとされている。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年9月10日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はTelegraphより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。