欧州において学校経営に生徒が参画する「学校会議」の仕組み
若者政策における先進国と言えるスウェーデンやドイツは、その主役となる子どもや若者の声を聞く若者参画政策においても先進国と言える。
ステップ・バイ・ステップと言われるその仕組みは、年齢や成長に合わせて幼少期から様々な形で意見表明をしたり、まちづくりに参画する受け皿が用意されている。
こうした参画の仕組みは、実践であると同時に子ども若者が成長していくための教育機会にもなる。
そんな欧州による取り組みの一つとして、今回は世界最先端の「生徒会」の取り組みを取り上げていきたい。
図表:スウェーデンやドイツにおける一般的なSchool Democracy
若者参画先進国においては、生徒会が政治教育においても、また生徒たちが学校現場などにおいて自ら関わる自治の仕組みとしても重要な役割を担っている。
その象徴的な仕組みとして「学校会議」や「学校協議会」と言われる学校の最高意思決定機関がある。
ドイツでは、学校ごとに学校会議(Schulkonferenz)を設置することが州の学校法に定められており、この意思決定機関のメンバーとして校長や教員、保護者、地域の方や弁護士などの専門家等に加えて中等教育段階では生徒代表も参加する。
「学校会議」は半年に1〜2回の頻度で行われることが多く、その役割は多岐にわたり、学校規則、校内規則、授業時間や休憩時間の配列、教室の割り振りといった「学校生活や授業の組織編制」、通学路の安全、就学援助、校内事故防止の取組など「児童・生徒の保護」、学校パートナーシップ、林間学校の原則、企業見学や美術館見学、遠足といった「学校行事」などがある。
同様の仕組みはスウェーデンにもあり、学校の最高意思決定機関として学校協議会(School conference)・学校評議会(School board)と呼ばれる。
生徒がその意思決定プロセスに関与することもしばしばあるほか、大枠の協議については学校協議会や学校評議会で行われるが、細部については生徒と教員が教室の中で話し合うケースも多く、高等学校では授業内容について生徒とも協議することもある。
図表: 欧州諸国における学校会議(学校協議会)の権限
日本の生徒会との比較のため、欧州各国の生徒会の現状についてデータも紹介しておこう。
ヨーロッパ諸国においては、学級会や生徒会だけでなく学校運営までをも担う学校会議や学校協議会が存在することを前述したが、データから調査対象となった欧州33ヵ国中の28ヵ国でルールやガイドラインが作られており、学校や地方権限で位置付けられている国も合わせれば、ほとんどの国で位置付けられており、うち11ヵ国では小学校からこの学校会議が位置付けられているというから驚かされる。
ドイツやフランスが公的に位置付ける傾向が強いのに対して、英国やスウェーデンなどは学校や地方などに委ねており、先進国の中にも必ずしも傾向がないことも分かった。
各国の学校会議(学校協議会)の権限については、設置されている国や年齢によっても大きく異なる。
基本的には小学校より中学校、中学校より高校と、上に上がるほど権限が強くなる。
その権限については、英国やスウェーデンなどではとくに公的なルールなどで位置付けられているわけではなく、学校に委ねられているケースが多く、ドイツやフランスでは逆にしっかりと公的なルールで位置付けられており、こうしたデータ上においては、ドイツ以上にフランスの方が意思決定への権限が強いように見える。
スウェーデンには生徒会の全国組織がある
図表: スウェーデン及びドイツにおける生徒会組織・支援イメージ
欧州における若者参画先進国では生徒会の全国組織や地域連合体、支援組織などが整備されている。
その形式は、国や地域においても異なるが、ここでは視察調査を行ったスウェーデンやドイツの事例を紹介していこうと思う。
スウェーデンには生徒会についても全国組織「全国生徒会(Sveriges elevråd(SVEA))がある。全国生徒会は、6年生~9年生の学校の生徒会のための共同組織であり、1994年に設立し、全国規模の若者団体でも最も大きな団体の1つである。
全国生徒会の最も大きなプロジェクトは、年3回行う生徒会役員を教育するための全国規模の大会(National gathering)の開催だ。この大会には全国から会長副会長200~300人が参加する。
2つ目が、生徒の権利に関する情報をFacebookやSNSなど様々なメディアでの提供だ。スウェーデンでは、学校内で生徒会が生徒の権利について話し合うことも多く、教科書や授業の中でも触れられている。
スウェーデンの全国生徒会では、政治家、国会議員、政府、国会などへのロビー活動も重要な要素であり、会の代表自らが行う仕事でもある。
ロビー活動は学校現場の中にもあり、学校の中で校長に対して要望するロビー活動などを行うことで、アイデアを実現するためには何が必要かを知るとともに、メディアや年上の人との接し方などの訓練にもなるなど教育の一環にもなっている。
ロビー活動にはステークホルダーと話す方法と、メディアを通じて行う方法があるが、全国生徒会では自分たちの要求の実現性を高めるため、2ヶ月に1度は7党の国会での教育担当者に会うようにしているほか、学校教育庁の長官や各省にも学期に1度会うと言う。
全国生徒会の代表は、こうした活動を通じて政府関係者や政治家と個人的な人間関係をつくり上げていくことがロビー活動において重要であり、いくつかの党の人と話をしてまとめることが大事だと話していた。
若者の声を政策形成過程に反映させる現場は国政レベルばかりではなく、自治体レベルの政策やまちづくりに若者の声を反映させる仕組みもある。その一つとして、スウェーデンにはもう一つの生徒会である「若者会(Youth Council)」がある。
若者会は13〜25歳の会員によって構成されており、それぞれの地域に若者会があり地域の政策に若者の声を反映させること、若者をエンパワメントすることを目的としている。
各自治体における若者会の運営形態も活動レベルも様々であり、市の公的機関として積極的に自治体の政策形成に関わっている若者会もある。若者会は地域で要望があると設置でき、スウェーデン国内の半分以上の自治体に何らかの若者会が設置されている。
このことについてはまた別の機会に詳しく触れたいと思う。
※スウェーデンの若者参画については、以前書いた『「世界で最も若者の声を聞かない国」も来年からは新成人だけでなく18歳から選挙権の新時代に』( http://blog.livedoor.jp/ryohey7654/archives/52008372.html )なども参考にしてもらえればと思う。
ドイツにおける生徒会支援協会の取り組みと、州生徒会連合
ドイツには、生徒会を支援するための「生徒会支援協会(Schülervertretung-Bildungswerk =SV)」という組織も存在する。
生徒会役員約20名が5日間プロジェクトマネジメントなどについて学ぶ「生徒会コンサルタント養成研修」を年1回実施しているほか、この受講した生徒たちが「生徒会コンサルタント」として登録され、他の学校で講師として20~60名を対象に「生徒会コンサルタントセミナー」を年間50〜150回程度開催し指導できる仕組みを作っている。
こうした同年代で対等な関係で学び合う仕組みは「ピア・トゥ・ピア(Peer to Peer)システム」と言われ、非常に高い効果を生んでいるという。
生徒会役員たちは、生徒会の権利と義務、プロジェクトマネジメント、コミュニケーションレトリック、ディスカッション、チームビルディング、弁論技術、司会進行に必要なスキル等について学ぶ。
生徒会支援協会自体も生徒会役員経験者などを会員にしており、生徒会役員が卒業後も生徒会活動に関われるシステムにもなっている。
ドイツは連邦制を取っており教育については州ごとの分権化が進んでいるためスウェーデンのような全国生徒会は存在しないが、州ごとに生徒会の連合が存在する。
その具体的な取り組みについて、訪問した際の様子も紹介しておきたい。
選挙権年齢が16歳に引き下げられて初めての州議会選挙を控えていたブランデンブルグ州では、スーパー選挙イヤーと呼ばれる2014年を「参画の年(The Year of Participation)」と位置づけ、様々な参画の取り組みを進めていた。
単に選挙権年齢を引き下げるだけでなく、それに合わせて若者への政治的知識や関心を高め、参画する機会を増やそうという狙いからだ。
投票日の10日程前、ブランデンブルグ州生徒会連合と啓発キャンペーン「選挙の目覚め(Wahlwecker)」の共同主催で州の政府官邸を会場に若者による参画フェア「Participation fair “Ready for Democracy“」が実施されていた。
企画・実行が全て州生徒会連合メンバーによって行われ、若者による若者の為のフェアとなっていた。
州全土から約150名の生徒が参加し、当日のイベントには20を超える若者団体や政党青年部がブースを構え、参加した高校生が自由に意見交換をして回っていた。
※様子については、動画で是非。 NPO法人Rightsドイツスタディツアー報告<高校生による16歳選挙キャンペーン版>( https://www.youtube.com/watch?v=r__-x8a7PJ8 )
生徒会支援協会が9/17に東大で「新しい生徒会」を提言
図表: 主権者教育としての新しい生徒会シンポジウムイメージ
こうした世界での事例なども参考に、18歳選挙権を実現しながら、なかなか進展しない主権者教育の現場に対して、代表理事を務める一般社団法人 生徒会活動支援協会で、抜本的な解決策の柱として「主権者教育としての新しい生徒会」の提言するシンポジウムを行う。
シンポジウムは、安倍政権の中で文科大臣補佐官として教育改革に取り組んでこられた鈴木寛 東京大学教授・慶応大学教授や、シティズンシップ教育の第一人者でもあり日本教育学会副会長でもある小玉重夫 東京大学大学院教授を招き、9月17日に東京大学で実施する。
詳しくは、是非当日いらしてもらいたいが、一般社団法人 生徒会支援協会としては、今後以下のような活動を推進していく予定である。
シンポジウムには既に160人以上の申し込みがあり、複数の都道府県教育委員会や首長からもご参加頂けることになっているほか、教育委員会関係者、若者参画などの担当自治体職員、大学などの研究者といった専門家からも多くの申し込み、さらには全国の教育委員会などから問い合わせも入っており、非常に注目してもらっている。
高校生、大学生といった当事者も含め、多くの皆さんに集まってもらい、日本の主権者教育を大きく変えるキッカケにしたい。
「動けば変わる!」そんなリアリティをこの国の将来を担う若者たちに伝えていければと思う。
図表: 一般社団法人 生徒会活動支援協会のめざす活動
一般社団法人 生徒会活動支援協会
Official Site: http://seitokai.jp
Facebook: https://www.facebook.com/seitokai.jp/
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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