議員たちの本業、議会での実力は?
小池知事が都知事選の際に「都議会のドン」と発言したことで、がぜん注目が集まる都議会。その後も、自民党都連幹事長や都議会自民党と小池知事とのやり取りはメディアで注目されている。
こうした報道によって、「改革派の知事」というブランド化と同時に、「都議会自民は既得権を守る抵抗勢力」といったマイナスブランド化がなされているようにも感じる。
最近では、「小池新党」とともに都議会議員も話題になり、豊洲新市場の問題とともに都議会議員の活動も日の目を見るようになった。
これまでは「都政」というと知事ばかりに注目が集まり、都議会議員の活動にまで都民の目がいくことはほとんどなかったが、良くも悪くも、都議会や都議会議員にスポットライトが当たり、都民が関心を持つことは、都政にとってはもちろん、地方自治や民主主義の質の向上にとっても大きな切っ掛けになるのではないかと期待する。
ただ、その一方で、都議会の中で議員たちがどのような活躍をしているのかは、あまり知られていない。
また冒頭で書いたようなステレオタイプの印象は必ずしも都議会議員たちの議会活動実態を表しているわけでもない。
そこで今回は、都議会議員選挙のあった2013年6月から今までの、都議会議員たちの都議会本会議での代表質問と一般質問の回数をデータ化して調べてみた。
1位2名は民進、3位には自民、公明
図表: 都議会議員質問回数ランキング
都議会本会議での代表質問と一般質問の総数をランキングにすると、最も多かったのは、5回で、石毛しげる氏(西東京)、中村ひろし氏(三鷹)の2名が並んだが、どちらも都議会民進党の議員だった。
次いで4回には12名が並ぶ。都議会公明党からも上野和彦氏(江戸川)、大松あきら氏(北)の2議員をはじめ、都議会は分かり難いのだが、民進党は2つの会派に分かれており、都議会民進党からは尾崎大介氏(北多三)、島田幸成氏(西多摩)が、民進党都議団からも田中朝子氏(杉並)、石川良一氏(南多摩)が入っている。
この他にも知事選挙で数少ない“知事与党”として注目されたかがやけ Tokyoからも上田令子氏(江戸川)と 両角みのる氏(八王子)が、都議会生活者ネットワークからは西崎光子氏(世田谷)、小松久子氏(杉並)、山内れい子氏(北多二)と3議員が入っている。
さらに、一般に都道府県議会では無所属議員が質問しづらい環境にあると思われるのだが、やながせ裕文氏(太田)が入っている。
一方で、質問が多い印象のある日本共産党東京都議会議員団からは1人も入っていなかった。
3年間の総質問は276回。1人当たりでは年間0.72回
この期間内で、現在所属する都議会議員の総質問数は276回。議員総数は127人なので、単純に1人当たりにすると2.17回となる。3年間の数だということから単純に考えると、1年間での議員1人当たりの平均質問回数はたったの0.72回ということになる。
これはあくまで本会議場で行う本会議での代表質問と一般質問だけの数字である。もちろん議員の議会での活動にはこれ以外にも委員会などがあるため、客観的な「データ」という形で、一つの参考にしてもらえればと思う。
都議会での議員の質問回数を会派別に見ていっても面白い。
都議会の127人の議員は、「東京都議会自由民主党(所属議員60人)」、「都議会公明党(23人)」、「日本共産党東京都議会議員団(17人)」、「都議会民進党(14人)」、「民進党都議団(4人)」、「かがやけ Tokyo(3人)」、「都議会生活者ネットワーク(3人)」の7会派に分かれて所属しており、その他に無所属が3人いる。
所属議員数による影響もあるが、総質問回数276回のうち122回と、ほぼ半数の質問を都議会自由民主党が行っており、Best20にランクインした議員数でも31人と圧倒的だった。
ただこうした数字も平均で見るとだいぶ変わってくる。
1人当たり質問数が最も多かった会派は都議会生活者ネットワークの4.0回となり、意外にも最も少ないのが日本共産党東京都議会議員団の1.6回だったことには少々驚いた。
総数の他にも「会派別質問数議員割合」のグラフを見てもらうと、各党の内部での質問機会の割り振りなどが見てとれて面白い。
満遍なく会派内議員に割り振ろうとする会派がある一方で、二極化していく会派もあるなど、会派ごとのカラーも見えてくる。
「質問ゼロ議員」の中にはあの議員も…
中でも注目は、任期中3年間、1度も質問していない議員が19人もいることだ。
会派別にその割合を見ると、最も多いのが東京都議会自由民主党で12人。これは「質問ゼロ議員」全体の63%を占めており、自民党議員全体の20.0%が「質問ゼロ議員」となっている。
こうした背景には、質問機会が限定されているため、どうしても大会派の議員には割り振りが少なくなるという構造もある。
そのため、「質問ゼロ議員」がいるのは規模が上から3つの大会派に限定されている。自民党に次いで多いのは都議会公明党の4人で「質問ゼロ議員」全体の21%、公明党議員全体の17.4%が占めている。次は、日本共産党東京都議会議員団の3人で、「質問ゼロ議員」全体の16%、日本共産党東京都議会議員団全体の17.6%となっている。
詳しくは、図表を見てもらいたいが、この「質問ゼロ議員」の中には話題の元都連幹事長や新たに都連幹事長となったあの議員など、大物と言われる人物も多く含まれている。こうした状況は国会での状況と似ている部分もある。
本来、市民にとっては自分の実生活に近いところから関心を持っていくのが自然だ。
イギリスの政治学者ジェームズ・ブライスによる「地方自治は民主主義の学校」という言葉が使われることも多いが、政治とは本来、市区町村での問題、都道府県の問題、国の問題と、自らの生活に近い課題から始まって、徐々に大きな課題が自らに関わってくることを知るはずだ。
ところが日本においてはなぜかこの構造が逆になる。
とくに都市部においてはその傾向が顕著であり、多くの有権者が最も関心を持っているのはマスコミに頻繁に取り上げられる「国政」となる。
いわゆる「意識高い系」と呼ばれるような層はもちろん、行政関係者、政治関係者、マスコミ関係者と話をしていても「地元の区議会のことなど全く分からない」という発言をよく耳にする。
酷いケースでは、こうした層ですら「地元の地方選挙には行ったことがない」ということもある。
最近の都議会に注目が集まる一連の流れは、単に「メディアが取り上げるようになっただけ」なのかもしれない。しかし、どんなことが切っ掛けでもいい、より多くの人が地方自治に関心を持つことにつながれば、それはそれでよいことだと思う。
今後は、「地方自治なんて誰がやったって同じ」ではなく、「地方自治にこそ優秀な人材を選ぶ」と有権者の意識が変わることを期待してやまない。
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人 生徒会活動支援協会 理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。 テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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