サウジとイランは討議中も、まだ合意には達していない

Bloombergが9月22日早朝に報じた掲題を、23日早朝(2:34am JST)にアップデートしている。来週29日(木)の夜、某TVニュース番組で解説を求められているアルジェリア協議に関するものなので、最新版を心して読んでみた。

要点は次のとおりだ。

・ウィーンのOPEC本部で加盟国代表は準備会議を行っている。

・ブリーフィングを受けた人の匿名条件によるコメントによると、サウジとイランは2日目のプライベート協議を終えたが、まだ合意には達していない。

・Bloombergが聞いた23人のアナリストのうち、2名を除き、大勢は「来週、合意することはないだろう」と悲観的だ。

・RBC Capital MarketsのHelima Croftは、より良い環境となっており、カルテルは現実的判断をするだろう、と判断している。

・4月中旬の同様の試みは、イランが参加しなかったので失敗したが、OPEC事務局はモスクワからパリへ、さらに中東諸国を巡り、何とかまとめあげようとしてきた。たとえば事務局長のMohammed Berkindoは、今月初めにカタールとイランを訪問し、合意形成に尽力している。

・ロシアのプーチン大統領は9月2日、産油国は合意に至るために意見の相違を克服できる、と発言した。

・コロンビア大学のJamie Websterは、経済制裁により生産を抑えこまれていたイランは、その後生産を回復し、制裁前の水準にほぼ近づいており、これまで以上に合意に達するチャンスは大きい、とコメントしている。

・さらにNatixis SAのAbhishek Deshpandeは、低油価により財政赤字を埋め合わせるために外貨準備を取り崩さざるを得なくなっているサウジにとっても妥協するインセンティブがあるが、サウジとイランの政治的対立などまだまだ多くの障害が存在している、と指摘している。

・OPEC内でも、シェールを含む非OPEC産油国との間でも、シェアー競争が継続しているし、サウジは記録的な生産を継続しており、イラン・イラクは生産能力の拡大を企図している。

・またOPECの中には、ロシアが約束した合意を守るかどうかを危惧しており、ロシアとの合意に消極的な国も存在している。

なるほど。
筆者は、経済合理性から考えれば合意するのが妥当だが、政治的要因がどれだけ影を落とすかが鍵だろう、と判断している。サウジとイランは、つい最近ハジ巡礼を巡り「言葉の戦争」を行ったばかりだ。イエメン、シリアの情勢次第では、両国はふたたび対立を鮮明にする可能性がある。

まだまだ予断を許さない。

だが、以上の議論には重要なポイントが見落とされている。
それは、どのような合意をするか、ということだ。

日本のマスメディアは依然として「増産凍結」と訳している「production freeze」、筆者は「生産据置」と訳しているが、より重要な問題は「freeze」するのが「どの水準」か、ということにある。

当初話があった「2016年1月」でも、あるいは「2016年の前半年」でも、現状生産量よりは「減産」になる。
おそらく多くの国が「最近の最大生産量」で「freeze」したいと考えるはずだ。だが、これでは「合意」の意味をなさない。
したがって、ある「時間軸」を固定する必要がある。たとえば「2016年7月~9月平均」とするのが一案だろう。

もう一つは、各国の生産量を誰が測定するのか、という問題だ。
筆者も分析上依拠しているIEAやOPECの月報も、アナリストなど第三者の推測数量を根拠にしている。だから両者の数値は一致しない。

あるいは、より正確な統計データを作ることを目的として数年前から主な産油国、消費国が行っているJODI(Joint Oil Data Initiative)のように、各国の自己申告に基づくものとするのだろうか?

仮に合意に達した場合でも、発表コミュニケは注意深く読む必要があるなぁ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年9月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。