筆者がかつて駐在したタイには「不敬罪」なるものが存在している。タイ王室に関する望ましくない記事が掲載されると、即、発禁となるのが常だった。英国の “The Economist” は何度か、この発禁処分を受けていた。
同じように「不敬罪」が存在するサウジアラビアの国王継承問題を、”The Economist” は ”The Real game of thrones” と題して報じている。リヤド発として9月24日印刷バージョンが伝える内容を、筆者の興味に基づいて紹介すると次のようになっている(ブログパージに字数制限があるので、相当端折っています。御興味のある方はぜひ原文をお読み下さい)。
・10年前には次代のホープとしてサウジのテレビニュースに度々姿を見せたムハンマド・ビン・ナイーフ(MBN)王子は、彼の叔父にあたるサルマン国王が即位した4ヶ月後、皇太子に就任した。それまでの6代にわたる国王は、建国の父、初代アブドラアジーズ国王の子供たち(第二世代)だったが、まだ数名、第二世代が存命のなか、第三世代のMBN(57歳)が公式に後継者となったのだった。
・然し、いまでは不確実となってしまった。この一年間、サルマン国王は最愛の息子、ムハンマド・ビン・サルマン(MBS、31歳)王子を国防相として、副皇太子として、また脱石油化の任務を負わせ、自分の後継者として育成しているように見える。
・MBNは、これまでにも何度か困難な時期を乗り越えて来ており、このまま降格され、姿を消すことはなさそうだ。2009年には、2003年にアルカイーダのリーダーの投降を面談して受入れた時と同じように、改心したと見せかけたテロリストと面談中、テロリストが直腸の中にしかけた爆弾であやうく暗殺されそうになった危機も経験している。
・MBNは今週、国家を代表して国連総会で演説をする。これは明確にMBNが「公式にサイドラインに立った」という憶測を打ち消すものだ。王国の中ではそのような憶測をすることはタブーだが、王室内の陰謀が囁かれている。多くの王子たちは、公の場では他の王室メンバーに敬意を表しているが、緊張が高まっている兆候が見られる。
・MBSは昨年来、国防相としてイエメン戦争を陣頭指揮し、将軍たちに会い、各国の首都を訪問し、いつも報道陣を引き連れ、リーダーシップを誇示してきた。だが介入が上手くいかなくなって、再び集団的決定を行うようになった。非難は皆で分かち合うべきだ、ということだ。Brookings InstituteのBruce Riedelは「目に付くことは、MBNが『そうだ、その通りだ』と急いで言わなくなったことだ」という。
・12月、MBNは不機嫌になったようで、奇妙なことに6週間もアルジェリアで過ごし、国内の任務を放棄した。それ以降、サウジ王室内には調和を示そうという努力が見られるようになった。然し、もし皇太子が国王になれば、彼は若いいとこの副皇太子をクビにするかもしれない。だから実務能力が衰えがちな80歳の国王は、もし我が子に王位を継承させたいなら、急ぐ必要があるかも知れない。
・だが、それは簡単なことではないだろう。サウジは伝統的に王族の総意によって統治してきている。多くの王子たちは、MBSが順番を飛び越えることを快く思っていない。イエメン戦争はすでに、MBSの首の周りにアホウドリ(心配事)をまとわりつかせている。彼の経済改革は本物の痛みを伴っている。
・一方、MBN皇太子は非常に好かれている。王族と西側外交団は、MBNを真面目で仕事熱心だと評価している。一般庶民は、皇太子は自分たちを守ってくれる人だ、と認識している。昨年、多くの死者を出したハジ巡礼を、今月無事に遂行せしめたことでも評価をあげている。人権派は、今年1月シーア派宗教指導者をテロリストして死刑執行したことを非難するが、若い副皇太子よりは安定しているように見える。王国が経済的改革に向かう現在、誰が次のリードをするのか分からない。だが、賭けることが可能なのは、次の国王のファーストネームが「ムハンマド」だ、ということだ。
うーむ。
つい先日、MBSは来日して天皇陛下に謁見、安倍首相らと面談し、その後中国でのG20にも国家を代表して出席し存在感を示したが、「次期国王」というのは必ずしも既定路線ではないようだ。
サウジの動向、ますます目が離せませんね。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年9月21日のブログより転載させていただきました(アイキャッチ画像は宮内庁サイトより)。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。