人工知能で仕事はなくなるの?


よい子のみなさんも、人工知能(AI)という言葉は聞いたことがあると思います。これは鉄腕アトムみたいに人間と同じように考えるコンピュータのことで、昔はマンガの中にしかなかったのですが、最近はコンピュータの性能が上がって、将棋や碁では名人を超えるようになりました。

これは数学の計算でコンピュータのほうが人間よりはるかに速いのと同じで、それほど驚くことではありませんが、そのうちもっと賢くなって、学習や直観の能力をもつといわれています。コンピュータが人間を超えてどんどん賢くなる現象をシンギュラリティ(特異点)と呼んで、コンピュータが人間の仕事を奪うという人もいます。

たとえばコンピュータで自動車を運転する自動運転は、10年以内にできるようになるでしょう。単純労働だけではなく、会計士や税理士のような書類づくりの仕事はコンピュータで置き換えやすく、医師や弁護士も事務的な仕事はコンピュータで置き換えられるでしょう。

しかしすべての人間の仕事がなくなることはありません。たとえば速く走る能力でみると自動車は人間の何倍も上ですが、それで職を失ったのは人力車の車夫ぐらいで、多くの人は自動車のドライバーになりました。自動運転で仕事がなくなるタクシーやトラックのドライバーは、コンピュータにできない他の仕事に移ればいいのです。

これを経済学で「比較優位」といいます。仕事が他人より何倍も速い「絶対優位」は人によってあるかないかわかりませんが、誰でも必ず比較優位はあります。たとえばバングラデシュと日本を比べると、ほとんどの製品で日本が絶対優位ですが、バングラデシュは日本に衣類や履き物を輸出しています。賃金が日本よりはるかに安いので、日本では割高な衣類はバングラデシュでつくって輸入したほうがいいのです。

同じことは人間にもいえます。たとえば社長が秘書に比べて絶対優位でタイピングも速いとしても、秘書の給料が社長より十分安ければ、秘書がタイプしたほうが効率的です。このように賃金が安くなれば誰でも比較優位になるので、仕事はなくなりません。これから日本は労働人口が減るので、労働市場を柔軟にして新しい仕事に移るチャンスを増やすことが大事です。

ただ定型的な仕事しかできない人の賃金は下がります。コンピュータにできなくて多くの人ができるのは接客サービスですが、賃金は安い。だからよい子のみなさんは、コンピュータに置き換えられる仕事ではなく、コンピュータを活用するソフトウェア開発やシステム設計などを勉強したほうがいいのです。

しかし今の学校は定型的な仕事をきちんとやる訓練をしているだけなので、人工知能には勝てません。文系の大学はそれもやっていないので、なくしたほうがいいと思います。人工知能に負けないためには、教育システムを根本的に変えないといけないでしょう。