核エネルギーの平和利用「60年」

国際原子力機関(IAEA)の第60回年次総会が26日、5日間の日程でウィーンの本部で開幕した。天野之弥事務局長は開会演説の中でIAEA創設60年間の歩みを紹介し、「IAEAは過去、多大の実績を挙げてきた」と強調、核エネルギーの平和利用を主要目標に掲げで創設されたIAEAの成果を紹介した。以下、IAEAの使命とその歩みを簡単にまとめた。

▲開会の演説をする天野事務局長

先ず、核査察協定(セーフガード)では、今年9月現在、181カ国がIAEAとの間でセーフガードを締結し、そのうち、173カ国が包括的核査察協定を発効させている。IAEAに強力な検証手段を提供する追加議定書を発効させている加盟国は現在128カ国だ。

▲IAEA第60回年次総会の全景(2016年9月26日、IAEA年次総会会場で撮影)

核査察協定の検証問題では昨年7月14日、国連安保常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの間で続けられてきたイラン核協議が「包括的共同行動計画」で合意し、2002年以来13年間に及ぶ核協議に終止符を打ったばかりだ。IAEAは現在、イラン核計画の全容解明に向けて検証作業を続けている。

今年1月と9月に2回の核実験を実施した北朝鮮の核問題では、天野事務局長は、「北の核実験は国連安保理決議に対する明確な違反だ」とシリアスな懸念を表明し、北に核拡散防止条約(NPT)加盟とIAEAとの核査察協定の締結を促している。

IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。今年で24年目を迎えた。1994年、米朝核合意が実現したが、ウラン濃縮開発容疑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、翌年、NPTとIAEAから脱退。06年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」を承認し、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至っている。

一方、福島第1原発事故(2011年3月)を受け、IAEAは「原子力安全に関する行動計画」を作成し、加盟国に福島第1原発の教訓をまとめ、原発の安全性強化に乗り出している。特に、「改正版核物質防護条約」(CPPNM)は核安全とテロ対策で重要な一歩だ。今年5月、同改正版は発効した。CPPNMの採択後、発効まで11年の年月がかかったわけだ。

IAEAは核査察協定の検証問題だけではない。核関連技術の平和利用の促進も重要な分野だ。がんで死亡する患者数は現在、エイズ、マラリア、結核で死亡した人を合わせた数より上回っている。その大部分は開発途上国の国民だ。
そこでIAEAは開発途上国への核医療の啓蒙を訴えている。具体的には、「ガン治療のためのIAEA行動計画」(PACT)では「胸部健康グローバル・イニシャティヴ」(BHGI)と共同で開発途上国のガン医療を促進。2014年には西アフリカのシエラレオネで猛威を振るっていたエボラ出血熱(EVD)の迅速な診断を下せる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)関連技術の利用促進を支援してきた。また、ブラジルなど中南米諸国で感染が広がるジカ熱対策では今年2月2日、ジカウイルスを媒介する蚊の繁殖を抑えるため、放射線で蚊の不妊化を進める技術(Sterile Insect Technique)の移転を明らかにしている、といった具合だ。

IAEAが23日に発表した核エネルギーの予測では、原油価格の低下や再生可能エネルギーの広がりで核エネルギーの拡大テンポは緩やかになっているが、「核エネルギーは将来も世界的に広がっていく」(原子力エネルギー局長のミハイル・ Chudakov事務次長)と予測している。IAEAは、「人口の増加で電力需要は増加している。核エネルギーは信頼性のある安全なエネルギーであり、温室効果ガスを削減させる」としてクリーン・エネルギーとしてア核エネルギーの重要性をアピールしている。天野事務局長によると、「約30の開発途上国が原子力の導入を検討している」という。

なお、天野事務局長は総会の開会演説の中で、「私は理事会で自身の3選出馬の意思を表明した。加盟国の支持を受けて3選を果たし、IAEAの健全なマネージメントの促進を継続していきたい」と表明した。ちなみに、IAEAでは過去、ハンス・ブリックス元事務局長は4選、通算16年間(1981~97年)、モハメド・エルバラダイ前事務局長は3選、12年間(1997~2009年)事務局長を務めている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。