39・9%のマジャール人の「反対」

欧州連合(EU)の難民収容分担案への是非を問う国民投票(有権者数約830万人)の投開票が2日行われたが、投票率は約39・9%で有効投票率50%からはほど遠く、オルバン政権が推進してきた国民投票は無効となった。ただし、EUの難民受け入れ分担案に対して約98・3%の国民(有権者約320万人)が「反対」を投じたことが判明した。

国民投票で投票率50%はかなり高いハードルだ。難民が殺到した昨年末、ないしは今年初めに国民投票が実施されていたら、結果は変わっていたかもしれないが、国境線が閉鎖され、入国する難民数が激減、国民の難民への関心が減少してきた現時点での実施ではもともと無理があった。なぜならば、国民の関心は停滞する国民経済の回復、雇用問題に集中し、もはや難民の収容問題は緊急課題とは受け取られなくなっているからだ。

オルバン首相は2日夜、ブタペストで与党「フィデス」の支持者を前に、「われわれは偉大な成果を勝ち取った。ブリュッセルにとってもそのダメージは大きいだろう。ブリュッセルはハンガリー国民の意思を無視できない。主権国家では国民は誰と一緒に住みたいかを決定する権利を有している」と説明し、国民投票の成果を強調している。

ちなみに、国民投票用紙の質問内容は「ハンガリー議会の承認なくハンガリー人でない人間をEUがハンガリーに強制移住させることに賛成か、反対か」だった。そして投票した有権者のほぼ100%が「反対」に投じたわけだ。

反対票が圧倒することは投票前から予測できた。だから、問題は国民投票が有効となる50%の投票率に達するかどうかにかかっていたわけだ。オルバン政権は国民を投票場に動員するため、メディアを駆使して外国人排斥キャンペーンを展開させる一方、フィデス党員は投票を呼びかけるSNSを国民に発信したほどだ(「オルバン政権の情報工作の疑いも」2016年9月30日参考)。

オルバン首相は国民投票をブリュッセルの官僚主義に対する挑戦と位置づけて国民に呼びかけてきた。そのため「国民投票が有効か無効かというより、国民がブリュッセルに反対する票がどれだけか、が大切だ」というわけだ。その意味で、国民投票は無効となったが、オルバン首相の狙いは一応達成できた、といえるかもしれない。

一方、フィデス党の横行に苦い体験を重ねてきた野党側からは、「国民投票が無効となった以上、オルバン首相は退陣すべきだ」という要求が聞かれるという。 極右派政党「ヨッビク」のヴォナ・ガーボル党首は、「オルバン首相のオウンゴールだ。個人的に敗北を喫した」と述べている、といった具合だ。

ブリュッセルはハンガリーの国民投票の動向にこれまで無関心を装ってきたが、英国のEU離脱投票の後だけに、ハンガリーでも反EU投票が大きな成果をもたらしたら大変だ、という危機感があったことは事実だ。
ハンガリーをEUから排除すべきだと発言して物議を醸したルクセンブルクのアッセルボルン外相は、「オルバン氏には良くなかったが、ハンガリーとEUにとっては歓迎すべき結果だ」と皮肉交じりにコメントしている。

なお、オルバン首相は、「国民投票の結果とは関係なく、ブリュッセル主導の難民の強制受け入れには反対し続ける」と強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。