年金積立金の運用は決して楽観できない

玉木 雄一郎

10月3日(月)、衆議院予算委員会で質問に立ち、年金問題を質問しました。

GPIFの運用責任

まず、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用成績について質問。

GPIFは、昨年度1年間で5.3兆円の運用損を出し、本年4月から6月の3か月でさらに5.2兆円の運用損。なんと15か月で10.5兆円もの巨額の運用損を生じさせました。

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これは一昨年秋、安倍政権が、年金積立金の株式への投資比率を50%に引き上げたことが原因です。株価変動のリスクをまともに被るようになってしまいました。

見直し後の運用益は、今年6月末時点で、全て消失してしまいました。
そして、問題なのは、参議院選挙の前には、こうした巨額の運用損を発表せず、国民に隠していたことです。大問題だと思います。

加えて問題なのは、これほどの運用損を出したのに誰も責任を取らないことです。
逆に、昨年1月、GPIF理事長の報酬は、2148万円から3130万円に、約1000万円引き上げられ、99ある独立行政法人の中で最高になっています。

そして、引き上げたまさにその年に、5兆円超の巨額運用損を出しているわけです。

にもかかわらず、安倍総理も塩崎厚労大臣も「妥当な報酬水準」だと答弁。感覚がずれているのではないでしょうか。とても、国民の納得が得られるとは思われません。

防衛費2年分に相当する運用損(約10兆円)を、わずか1年半で出しておいて、問題がないと平然と言える感覚が問題だと思います。

「実質的な」運用利回りのからくり

総理は、年金運用は短期ではなく長期で見るべきと言いいますが、実は、この15年間の運用「実績」を、年金財政上求められていた「前提」と比較してみると、楽観できる状況ではないことが分かります。

確かに、名目賃金上昇率を差し引いた「実質的な」利回りでみると、
前提で0.2%、実績は2.6%で、
「前提を大幅に上回っている」ように見えます。

しかし、単純に「名目」の運用成績で比較すると、
前提2.3%、実績2.1%で、
ギリギリ上回る程度の成績に過ぎないわけです。

ちなみに、政府の言うように「実質的な」運用成績でみると、
昨年度(2015年度)は、7年ぶりに「実績」が「前提」を下回りました。
旧民主党政権時代も含め、2009年以降ずっと「実績」が「前提」を上回る成績を出していたにもかかわらずです。

総理は「不安をあおるな」と言いますが、短期でみても、長期でみても、GPIFの運用実態は、そんなに楽観できる状況にはないのです。

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「年金カット法案」

GPIFの運用が長期でみて前提以上にうまくいっていると主張する一方で、政府は、今国会に年金をカットする法案を出してきています。

しかも、物価が上がった場合でも年金を減らすような法案です。
これまでは、物価があがるときに、年金が下がるようなことはあり得ませんでした。

私の質問に対して、
物価が上がった場合でも、賃金が下がれば、(まさに本年度がそうですが)現在すでに年金を受け取っているお年寄りの年金も減ることを、
総理も厚労大臣も正式に認めました。

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そもそも、おかしいのは、2014年の財政検証では、アベノミクスの効果によって、賃金や運用成績も順調に上がる前提になっています。

それなのに、なぜ賃金がマイナスになることを前提にした法案を出すのか。
矛盾だらけです。

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賃金が上がると信じているなら、「年金カット法案」を出さなくていいはず。

アベノミクスの将来展望や、内閣府の中長期試算とも整合性がとれません。

実は、この「年金カット法案」、通常国会に提出されて継続審議になっている法案です。しかし、自民党は参議院選挙で一切説明しませんでした。

総理自身、臨時国会冒頭の所信表明演説でも、一切言及することがありませんでした。

ちなみに、もし過去10年間に今回のルールが適用されていたら、年金額は5.2%減っていた計算になります。

国民年金で言うと、年間最大約4万円も減る計算になると思います。

「年金カット法案」は、国民生活に多大な影響を与える法案です。
総理には、無理に成立を急がず、衆院選の争点として、国民に信を問うべきだと申し上げました。

年金の最低保障機能の強化の必要性

私も、将来世代も考えた「年金財政の持続性」は重要だと考えています。
しかし、単に年金をカットするだけでは、「高齢者が生活を持続すること」ができなくなるおそれがあります。

今、高齢の生活保護受給世帯が増え続けています。

国民年金の平均受給金額が月額5.4万円。生活保護だと10万円を超えて医療費も無料。こんな状態では、高齢者の生活保護が増えるのも、ある意味当然です。

年金財政の均衡を考える際は、年金の「最低保障機能の強化」もあわせて考えないと、問題の根本的な解決にはなりません。

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そこで、総理に対して

「年金カット法案」を通すなら、消費税率10%引き上げの際予定されていた、年間最大6万円の低所得年金者への年金加算を、予定どおり実施すべきだと提案しました。

自民党の参議院選公約でも、「低年金対策として、福祉的給付などの対策を実施します」と明言しているので、約束した政策は、予定どおりやるべきだと申し上げました。

しかし、安倍総理は、消費税財源を確保してから行うと言うだけで、全くやる気がありませんでした。残念です。

ちなみに、平成25年、26年、27年の公共事業予算には、それぞれ未消化額が1兆円以上出ています。こうした予算を効率化すれば、年間5千億~6千億円は出るはずです。この際、税金の使い方を見直すべきです。

4年前に始まったアベノミクスは国民の期待を高めましたが、
結局、株価を無理やり上げるために年金のお金を株に投資して失敗し、
また、マイナス金利で年金や生命保険が国債で資産運用することを困難にしました。
さらに、物価は多少上げたものの賃金が上がらず、物価が上がっても賃金下落にあわせて年金を減額する「年金カット法案」を出してくる。

いよいよ、「アベノミクスは年金と年金生活者の敵」と言わざるを得ない状況になりつつあります。引き続き、注視していきます。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2016年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。