言葉はすべてブーメランとなり自分に戻ってくる

尾藤 克之

講演中の野口健幸氏。

日本人は脳科学が好きなようである。そして脳科学ブームは数年おきに到来する。過去には『脳内革命』『バカの壁』『脳を鍛える大人の計算ドリル』などのベストセラーも多い。

人生は「口ぐせ」でまるごと変えられる。』(秀和システム)の著者である、野口健幸氏(以下、野口)は横浜市役所の職場でいじめにさいなまれていた時、ベストセラー作家であり医学博士の故佐藤富雄氏(以下、佐藤)に弟子入りをする。

野口はくしくも佐藤の最後の弟子となった。教わった理論は言葉術がベースだが、斎藤一人、マーフィーのものを更に平易にしたと表現すれば分かりやすいかも知れない。

■脳は簡単にだまされる

佐藤は医学博士であり、脳科学が専門である。大脳・自律神経系と人間の行動・ 言葉の関連性から導き出した理論は広く話題になった。次のようなケースを想定してもらいたい。

<ケース>
なんとなく気分が落ち込んでいるときに、たまたまテレビで悲しいドラマをやっていて、見ているうちに涙があふれてきた。涙がこぼれたら止まらなくなってしまった。

普通は「悲しいので泣いてしまった」と思うかも知れないが、これは間違いなのだそうだ。正解は「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」が正解である。(カナダの生理学者ハンス・セリエ氏から引用)

脳科学で解説すると、たとえウソ泣きであっても、脳は「いま悲しいのだ」と錯覚し、その心的状態に見合った脳内ホルモンを分泌する。そうした脳の働きにより、実際に悲しい出来事に見舞われたように悲しい気分が醸成されていく。つまり、この原理からすれば喜怒哀楽といった感情から脳は簡単にだまされてしまうともいえる。

■ネガティブな言葉は取り消せ

野口は、以前の職場では嫌なことがあると「ちくしょう」「バカやろう」などと乱暴な言葉を口にしてイライラすることが多かったと述べている。しかし、結局は気が滅入ってしまい行動が阻害される。

誰でもやってしまうことに、ネガティブな言葉を口にしてしまうことがある。ネガティブな言葉を口にしたらどうすれば良いのだろうか。脳がだまされてマイナス影響があったら少々やっかいだから早く抜け出さなくてはいけない。

「まずは『キャンセル』と発して、すぐにその言葉を取り消すと良いと思います。例えば『これはちょっと苦手な仕事でいやだな」と言ってしまったら、すかさず『キャンセル』と言い、続けて『大丈夫。自分がやればできる』と言いなおすのです。」(野口)

苦手な言葉を口にした時点で脳の活動は弱まるといわれている。脳科学的にも「人の脳は気分のいいときに最も活性化する」と証明されているので、いい言葉を使うことで意図的につくり出すことができると野口は述べている。

さらに、避けようのない事実として、言葉はすべてブーメランのように自分に帰ってくることを理解しなければいけない。だったらネガティブな言葉よりも、いい言葉を積極的に使うほうが間違いが無い。

最近は、国会論戦などの政治の場面で、「ブーメラン」という表現を良く聞くが、これにはそれなりの理由があるということだろう。

■言葉は自分に返ってくる

「彼は仕事ができる」「性格も申し分ない」「みんなが信頼し好かれている」と、誰かをほめたとしよう。いずれ相手に伝わるからほめた人は得をすることになる。野口によれば人をほめることの効果は大きいようだ。

「私自身が使う言葉を意識しているせいか、ここ数年は『やさしい』『多くの人から好かれている』と言われるようになりました。ほめる言葉は場所を選ぶことなく、口にすることで効果が期待できます。」(野口)

では言いたいことを遠慮なく言い続けてたらどうなるのだろうか。特に、日本の社会では欧米よりも自己主張がしづらい雰囲気がある。言いたいことは我慢をしなければいけない。言いたくても抑えることが当然とされる。

「かつては、周囲の反応などをまるで気にせずに言いたいことを言っていました。自分の意思を明確に発言することが大切だと思っていたのです。しかし、思い返せば、感情をストレートに口にしていたこともありました。反省すべき点がありました。」(野口)

職場で苦しい状況に追いやられた自分自身を客観視した際に、言葉はブーメランであることに気がついたそうだ。「悪口」「いい言葉」「ゴシップ」、感情に影響を与える言葉は色々とあるが繰り返しつかっていると、ブーメランのように戻ってきてしまう。このことからも言葉の大切さを感じずにはいられない。貴方はどうだろうか。

尾藤克之
コラムニスト

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