多様性って何?

池田 信夫


このごろ日本で、にわかに「多様性」という言葉がはやり始めました。Diversityという言葉は、アメリカで「女性や少数民族の差別をやめよう」という意味で使われますが、日本では蓮舫問題について民進党の幹部が「多様性が大事だ」と言い訳に使ったのが始まりで、朝日新聞などの「リベラル」がそのお先棒をかついでいます。

日本人は「単一民族」だとか「均質」だといわれ、あまり多様性がないと思われています。単一民族というのはまちがいですが、均質なことは確かで、それが日本人の長所でも短所でもあります。もう少し多様な人を受け入れたほうがいいというのも、一般論としてはまちがいではありませんが、どれぐらい受け入れるんでしょうか。

「二重国籍を問題にするのは排外主義だ」という人々は、国籍なんか問わないで難民を無限に受け入れろと言っています。それがドイツのメルケル首相のやったことです。ドイツは昨年シリア難民を110万人も受け入れましたが、暴動や犯罪などの事件が激増して、メルケルさんは退陣を迫られています。

日本で貧困層といわれる人は、世界の中では所得が上位3%以内に入っています。入国管理も国籍も廃止したら、97%の人々が日本に移民してきて、少子化問題はたちまち解決するでしょう。しかし犯罪は激増し、生活保護で財政は破たんします。これは「リベラル」のみなさんが考えているほど簡単な問題ではないのです。

難民を受け入れることは、人手不足の解決にはなりません。日本の労働人口はあと30年で3000万人も減るので、それを移民で埋めることはできません。そんなことをしたら、今まで多くの移民を受け入れた経験のない日本社会は大混乱になります。

この問題の答は、みなさんがどういう立場でものを見るかによります。難民の受け入れは人類全体を幸福にするでしょうが、日本人は不幸になります。日本人の立場で考えることを排外主義だという人は、世界の97%の人々をすべて受け入れろというのでしょうか。「博愛主義」は結構なことですが、あなたの所得のほとんどを難民にあげるんでしょうか。

ただ日本はこれから、いやでも多様性を受け入れざるをえなくなるでしょう。北朝鮮の人口は2500万人ですが、政権が崩壊して戦争が始まると、その2割が難民になってもシリア並みの問題になります。船に乗って日本にやってくる人々もいるだろうし、国連が日本に10万人ぐらい難民の受け入れを割り当てるかもしれない。

そういうときにそなえて、国籍の管理はむしろきびしくする必要があります。世界では国籍は二重でも三重でも認める代わり、不法入国や不法滞在をきびしく取り締まる方向になっています。日本はそれを国籍という形で管理しているだけですが、10万人という規模の難民は受け入れたことがありません。政府は準備が必要だと思います。