景気対策を選挙の手土産にするな
国家予算は政治が自由に使えるものという錯覚が定着してしまいましたね。政権は何の痛みも感じないので、好きなように景気対策や補正予算を組んで、選挙を有利に運ぼうと考えるのです。夏の参院選が終わったと思ったら、来年1月には衆院の解散があり、もう第3次補正の準備とか。選挙が年中行事になり、そのたびに景気対策や補正予算が手土産になるのです。
誤解のないように申し上げておきますと、財政を守るために選挙をやるなということではありません。選挙は政権樹立、政権維持のための最大の手段ですから、必要な時は選挙に打ってでて、国政の基盤を確立していくのは大切なことです。問題は選挙のたびに政治が国家予算のふところに手を突っ込むことをやめよ、ということです。そんな無理を続けていると、「政権が安定すれば、経済も安定する」とは、逆の結果を招きかねません。
安倍1強政権になったのですから、少なくとも経済・財政政策については、筋を通したらどうなのでしょうか。経済・景気が芳しくなくなってから、さらに増税延期(消費税など)も選挙カードに使われ、財政は先進国最悪という悲惨な状態です。最大野党の民進党は蓮舫・野田路線への党内からの反発も強く、追い打ちをかけるチャンスと考える政治戦術はありでしょう。その際、これ以上、財政を痛めたり、史上空前の金融緩和の冒険に踏み込んでいる日銀を道連れにしてはいけません。
ただで済む経済・景気政策はない
ただでできる経済・景気政策はありません。財政政策の主な財源は国債ですから、返済義務(償還)は今の若い世代に降りかかってきます。財政再建の柱である年金・医療制度の改革のために、若い世代ほど年金を減らされたり、医療保険の支払いが増えてくるのです。
第2次補正予算(事業規模28兆円、国費5兆円)が11日の参院本会議で成立しました。と思ったら、来年1月に解散・総選挙があることを前提に、早くも第3次補正予算を待望する声が上がっているそうです。第2次は7月の参院選対策、第3次は衆院選対策の選挙対策費ですか。いくらなんでも、それはないでしょう。自分のカネだったら、財布の紐は締めてかかりますよ。
形はデフレ脱却が大義名分になっています。第2次の中身をみると、訪日外人の拡大に向け、大型クルーズ船を受け入れる港を全国、まんべんなく整備するなんて聞くと、選挙目当ての便乗予算がいかに多いことでしょうか。税制改正のために、専業主婦世帯を優遇する配偶者控除の廃止・見直しは選挙に不利と考え、急転、見送りとなりました。
消費税の10%への引き上げも選挙対策のために、2度も見送ることになっています。この後、当分、現れないだろう強力政権だからこそ、財政再建(社会保障財源)のために実施すべきだったのに。選挙のために回避されたのです。ポピュリズムに乗って政権はますます強く、国民経済・財政は逆に痛むという道を歩んでいます。そういうことが積り積もって国債が1000兆円に達してしまったのです。選挙は財政赤字拡大の大きな要因です。
総裁任期は延び、選挙の間隔は短縮
最近の衆院選は、14年12月、12年12月、09年8月、05年9月、03年11月でした。これに17年1月が加わりますと、2年に1度の選挙ですね。その間に、参院選(3年に1度)は16年7月、13年7月、10年7月などですから、国政選挙はほぼ毎年です。経済・景気が低迷していますから、そのたびに選挙対策として大型の対策が組まれているということです。
せっかく自民党総裁の任期を連続3期(1期3年)まで延長するという流れが固まってきました。総理・総裁の就任期間が長くなる一方で、国政選挙の間隔は短くなっているというのは、変ですよね。政権が安定し、経済は不安定さを増す。強力政権で無理な経済政策を重ねていくと、そうした矛盾に陥りかねないのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。