朝鮮は日清・日露戦争の原因で被害者でない

八幡 和郎
景福宮「興礼門」

閔妃暗殺の舞台になった景福宮(写真はWikipediaの「興礼門」より編集部引用)

「韓国・朝鮮は大国の狭間で翻弄されてきた」という人がいます。しかし、それはちょっと違うと思います。もちろん、そういう時もありましたが、半島が大国の争いの原因をつくってきたことが多いのです。そのことを、日本人は知った上で日韓友好を探らないと見当外れのことになります。

明治維新のころ、朝鮮では、国王の高宗をはさんで、父の大院君、王妃の閔妃が権力闘争を繰り広げ、それぞれが日本、清、ロシアなど外国勢力を利用し、しかも、めまぐるしく提携先の間を遊泳しました。また、外交常識に反した非礼な振る舞いもありましたし、近代化に消極的だったので、自立した国家としての成長が遅れました。 

大院君は傍系の王族でしたが、次男(高宗)が国王になったので、実権を握っていました。そして、高宗の王妃に夫人の遠縁である閔妃を充てたのですが、彼女が反大院君派を糾合して一八七三年に高宗に親政を開始させ実権を握りました。

日本は閔妃が開国に前向きというので、明治8年(1875)、日本軍艦に朝鮮側から発砲があったのを機に「日朝修好条規(江華島条約)」を結びました。朝鮮は「自主の国 」と位置づけられ、釜山、仁川、元山が開港しました。

これ以降、文明開化で驚くべき成果を上げていたのに触発され、親日派が増えました。ところが、閔妃は新興宗教に凝りだし、暴走を始めました。1882年、日本の肝いりでできた新式軍隊優遇に不満な保守派が大院君と反乱して親日派や閔妃側近へのクーデターを起こし、日本公使も逃げ帰りました。

しかし、清国も、大院君のやり方が無茶だということで、日本に賠償や謝罪をさせ、公使館に日本兵を駐屯させることを認めさせました。

一方、閔妃と清国が連携するようになり、李鴻章は清国は朝鮮の宗主国であり朝鮮を保護する立場であるとして、袁世凱と軍隊を朝鮮に常駐させ、大院君は天津に拉致されて四年間も抑留されました。

清国軍の乱暴狼藉はひどく、福沢諭吉の影響を受けた金玉均らの開化党が、1884年にクーデターを起こしました。しかし、袁世凱の介入で、日本軍は追い出され、金玉均は日本に亡命し、のちに、上海に誘い出され殺されました。

ところが、閔妃は袁世凱が高圧的なので、ロシアを引き込もうとしましたので、伊藤博文と李鴻章が話し合い、天津条約(1885年)で、日清両国は朝鮮から撤退し、派兵するときは通告し事態が終結したらすぐに撤兵するとしました。閔妃を牽制するため大院君の帰国を認め、イギリスに巨文島に派兵してもらってロシアを牽制させましたが、それでも、ロシアは北東部に進出してきました。

復帰したのち、大院君は日本との関係を改善し、清国からの独立に向けて動くかに見えたのですが、すぐに日本と衝突しました。そして、斥倭洋夷(朝鮮から日本と西洋外国を排除する)を掲げる新興宗教集団の東学党に乱を起こさせて混乱を起こし、袁世凱に介入させて日本を排除しようとしたのですが、袁世凱は北京に逃げ帰り、この大院君の火遊びが日清戦争に発展したのです。

日清戦争での日本の勝利を受けた下関条約で、清と朝鮮の冊封関係の解消と朝鮮の独立が決められました。

保守派の代表となった閔妃は暗殺され、日本公使の三浦梧楼がかわったのは否定できませんが、大院君なども関与していたわけで日本は内紛の片方に肩入れしただけです。

日本と組んだ大院君が復帰し金弘集を首班に開化派の政府ができ、断髪令や太陽暦が施行されたましたが、反発は強く、断髪令に対する蜂起で金弘集は暗殺されました。

ここで李完用らの親露派が、高宗にロシア公館へ移住させました。ところが、ロシアは高宗と皇太子を軟禁状態にして、政府にロシア人顧問を入れさせ、ロシアの利権を設定し、欧米各国などにも利権をばらまいてリベートを手に入れました。

これに怒って独立協会が創設され、李完用が会長になり、彼らは、清国からの使節を迎える迎恩門(沖縄の守礼門に当たる)を取り壊し、跡地に独立門を建てました(日本からの独立を記念したものではありません)。

また、ロシア公館から高宗と皇太子を戻し、1897年、高宗は国号を大韓帝国とし、光武という独自の年号を決め、皇帝となりました。

こうした経緯の結果、日露戦争は起きたのです。こうした経緯を振り返れば、朝鮮が大国の思惑に翻弄された被害者という単純な立場でないことが分かると思います。とくに、大院君と閔妃が私益のために外国に頼ったのに日本も翻弄されたわけです。

いうまでもなく、日韓併合は、外交の常識としては有効ですが、強い圧力の結果ですから、申し訳ないことです。日本側に言い分はあっても、現在の世界の常識としては、遺憾とすることは当然です。ただし、そのことは、原因が主として日本にあるということを認めることではないと思います。

最終解答 日本近現代史 (PHP文庫)

八幡 和郎
PHP研究所
2016-10-05

 

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