1920年代のニューヨーク。マックス・パーキンズは、F・スコット・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイら、名だたる作家の数々の名作を手掛けた出版社スクリブナーズ社の敏腕編集者として知られていた。ある時、パーキンズの元に、無名の作家トマス・ウルフの原稿が持ち込まれる。ウルフの才能をすぐに見抜いたパーキンズは、感情のままにペンを走らせるウルフを父親のように支える。パーキンズの導きで処女作の「天使よ故郷を見よ」がベストセラーに輝き、さらなる大作を手掛けるため、二人は昼夜を問わず執筆に没頭するが、パーキンズは家庭を犠牲にし、ウルフの愛人は二人の関係に嫉妬するように。やがて完成した2作目も大ヒットするが、編集者と作家の関係に変化が訪れる…。
実在の編集者と作家の友情と複雑な関係性を描く「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」。アーネスト・ヘミングウェイの「老人と海」やスコット・F・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」などの名作は知っていても、それらの誕生を支えたのがカリスマ編集者マックス(マックスウェル)・パーキンズだったことを、恥ずかしながら本作で初めて知った。物語は、夭折の天才作家トマス・ウルフを世に出し、父親のように支え、そして決別に至ったごく短い期間を描くが、妻や愛人が嫉妬するほどに、二人の友情は濃密だ。だがその関係性は単純ではない。名声を得たウルフは、パーキンズなしでは作品は書けないと悪評されたことで、二人の友情は歪められてしまう。大長編の作品を「削れ!削れ!」と繰り返す編集者と、それを拒みながらも作品を仕上げていく作家は、命がけの攻防をしているかのようだ。これは編集者と作家の真剣勝負の共闘を描く物語である。
それにしても1920年代のジャズ・エイジの時代は、何とキラ星のような才能が集まっていたことか。本作で描かれる芳醇な文学はもとより、音楽や絵画、もちろん映画も含めて、文化の輝きはまぶしいほどだ。コリン・ファースとジュード・ロウのクラシックなたたずまいは20年代のNYの風景にごく自然に溶け込んでいる。それぞれの妻、愛人の役を演じるのはローラ・リニーとニコール・キッドマンと、豪華キャストなのも見逃せない。作品そのものは渋いが地味な小品。だが、読書の秋に、こんな文学秘話の映画を見るのも悪くないだろう。
【65点】
(原題「GENIUS」)
(イギリス/マイケル・グランデージ監督/コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、他)
(友情度:★★★★☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月19日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。