大手広告代理店「電通」の新入社員だった高橋まつりさんが昨年12月25日、都内の会社の寮から投身自殺しました。残業時間が100時間を超えていた事などから、労働基準監督署に過労死と認められました。
また、滋賀県大津市で中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺してから10月11日で5年となり、学校では全校集会が開かれ、校長が、命を大切にする気持ちを忘れないよう呼びかけました。
どちらもなんとも痛ましい事件であり、亡くなられたお二人のご冥福を心からお祈り申し上げます。
この2つの事件は大きくマスコミに取り上げられています。そのことによって今後も全国の学校や企業も改善を迫られることとなっていくでしょう。
しかし、日本で痛ましくも自殺をしてしまう人は毎年3万人を超えます。3万人を超えてもマスコミに取り上げられる事件はその数に比べあまりにも少ないです。そして取り上げられる事件には共通点があります。それは責任を追及できる組織があることです。
高橋まつりさんが名もない中小企業に勤めていたら、これ程注目されていたでしょうか?大津の中学生が、中学生ではなく成人していたら?
責任を追及する先のない自殺者にも様々な原因や理由があるはずです。しかし、それらは世間に知られ、議論される場が作られる事もなく、自殺者の数は増え続けています。
最も世間から注目されやすいのは子供の学校におけるいじめが原因の自殺でしょう。しかし、
日本の年齢別自殺者数と性別および理由(2010年)(Wikipedia)
によると、19歳までの自殺者の数は、他の年代に比べ圧倒的に低く、最も自殺者の多い50~59歳は19歳までの自殺者数の12倍以上です。
50~59歳は19歳までの若者に比べ12倍の自殺リスクを抱えているのに、この年代の方の自殺が大きく取り上げられることは滅多にありません。
中高年のほうが健康問題で自殺してしまう人はやはり増えますが、それでも19歳までの自殺者の原因として健康問題の割合は約26%、50~59歳は39%。自殺者数が12倍にもなる原因の多くはそれ以外の要因のほうが大きいようです。
世界17位、先進国の中では韓国、ロシアに次ぐ自殺大国である日本において、最も自殺する危険のある50~59歳の年代の自殺がほとんど注目されることも議論されることもないこの現状はいかがなものでしょうか。
確かに人の命が失われたことに対して、責任を追及すべき組織がある場合はしっかりと追及し、問題を改めて定義することもとても大事なことです。
そして、責任を追求すべき組織がない個別のケースを、マスコミからしてもそれを取り上げるのは難しいかもしれません。
だからこそ、人々の注目を集める自殺事件が起きた時に、どのように報じるかが重要です。高橋まつりさんの事件で電通だけを槍玉に上げて叩くのか、それとも過労死問題全体をしっかり議論出来るように報じていくのかで、その問題の定義は大きく違っていきます。
政権への支持率についても、株価や雇用率、経済の成長率は大きな影響力があり、常に議論されていますが、自殺率の推移にはほとんど言及されません。
しかし長年、自殺大国となってしまっているこの国において、それはもっと大きな指標とすべきです。自殺率が改善されないと政府に批難が集まり、与党もそれを野党に追及される。
そういった状況を作り出す事こそ「このような悲劇を繰り返さない」ために、大切なことではないでしょうか。
林けんいち
フリーライター(ブログ:非常識バイアス)
※アイキャッチ画像はNHKニュースより引用(編集部)