BGの元会長で、今はサウジアラムコの社外取締役を務めるAndrew Gouldがロンドンの「Oil and Money Conference」で「石油価格は50~60ドルで十分(FT: “”Oil price of $50-60 is sufficient: Saudi Aramco board member)」と講演したと伝えられる一方、FTニューヨークのEd Crooksが秀逸な記事を掲載している。記事タイトルは “Frackers profit from shifting fortunes in the oil price war” (東京時間10月19日午前2時頃)となっているが、筆者の個人的趣味であえてブログタイトルを変えてみた。
書き出しがこうなっているからだ。
「1812年にナポレオンが進軍を止め、撤退を余儀なくされた地に『攻撃終了の地』と書かれた記念碑が立っている。OPECが戦略変更を決めたアルジェの国際会議場には、2014年から始まった石油価格戦争に関する同じような記念碑が立つのが相応しいだろう」
記事の要点は次のようなものだ。
・まだ実行はされていないがOPECが、生産削減が必要だ、ということに合意したことだけでも、競争相手を市場から放追するという試みが失敗したことを認めたことになる。
・石油価格戦争は終わっていないが、あたかも幸運は移動してしまったようだ。
・2014年にサウジが生産削減を拒否したとき、米国シェール産業はすぐにでも崩壊すると考えた人々もいた。だが彼らは、苦境を乗り切り、この夏からは稼働リグ数が増加していることに見られるように、再び拡大し始めている。
・困難が革新を呼び、生産コストを2014年から約40%削減せしめた。
・さらに、連銀政策に裏打ちされた米国金融市場の力強さも業界が困難を乗り切った一因だ。
・サウジの戦略は、米シェール産業への資金供給を断つのではなく、石油産業全般の長期投資を削減せしめる一方、稼働リグ数を2014年10月から2016年5月までに80%も減少させるという効果をもたらした。
・シェール産業への資金流入は途絶えることなく、株式・社債発行、銀行融資等により、財務的に優良な業者は資金調達が出来ている。
・先週、Extraction Oil & Gas社が2014年夏以来はじめてのIPOに成功し、さらに何社かが準備中である。
・2015年始め以来、北米の100社以上の中小石油開発会社が倒産したが、彼らはもともと負債比率が高く、高コストだった。強い会社は生き残り、さらに拡大に備えている。
・(低油価による)財務危機は、ベネズエラや他のOPEC諸国などの経済危機などを米国外でもたらし、シェルの例のように大手国際石油会社が配当率を引き下げざるを得ないといったところで発生している。
・OPECの今回の発表は、米シェール産業を崩壊せしめるという幸運を慎重に置き去りにし、共存を考えるというサインだ。このことに苦痛を感じる国もあるだろうが、不可避のことである。
・米国投資家の自信を打ち破ることに依拠した戦略は、(ナポレオンの)モスクワへの進軍と同じようなことであることが判明したのだ。
読者の皆さんには、この記事で現状を把握していただきたいと思うが、筆者は若干違う見方をしている。
筆者は、サウジが主導した2014年11月の「好きなだけ生産しよう」戦略の背景には、80年代半ばの「逆オイルショック」の教訓がある、と考えている。
すなわち、価格は市場が決めるもので、サウジと言えども決める力はない。だから、価格を維持するための生産調整は行わないが、販売シェアーは維持したい。市場が、高コスト原油を市場から排除して行くだろう。その結果、需給バランスが回復し、価格は上昇基調に戻る、と。
この戦略がなぜ成功しなかったのか。それはシェールの強靭性に加え、OPECの野放図な増産(2014年3100万B/D→16年9月3340万B/D)が足を引っ張っているからだ、と筆者は考えている。
ナイミ前サウジ石油相の自叙伝が年末に出版される。この自叙伝に2014年11月末の「決定」の背景にどのような考え方があったのか、結果をどう評価しているのかなどが書かれているのかどうか、非常に興味があるので「予約」をしてしまった。
届くのは来年1月とのことだが、1日も早く読みたいものだ。