昨夜エクソンのレックス・ティラーソン(CEO & Chairman)が「シェールがあるから向こう3、4、5年間は、サウジの言うような供給不足が起こる心配はない」と発言したというニュース(FT “ExxonMobil chief rebukes Saudi on oil supply” Oct/19/2016 around 19:15 Tokyo)を読んだとき、うむ、とうめき声を発していた。大きな違和感が残ったからだ。なぜだろうか。
消化不良のまま朝を迎え、FTの追加記事 “Exxon and Saudi Arabia at odds on oil market supply” (Oct/20/2016 around 1:30 Tokyo)を読んで、少々頭の整理ができた。
今朝のFT記事の要点を紹介しておこう。
・エクソンのレックス・ティラーソンは、2013年対比6億バレルも多い在庫と、北米のシェールが余剰生産能力となっているから、向こう3,4,5年間の間に、供給不足が生じて価格が高騰する恐れはない、と、ファーリハ・エネルギー相の講演のすぐ後に、Oil & Money summitで(同じ壇上から同じ聴衆に向かって)話をした。
・サウジのファーリハ・エネルギー相は、自国が財政危機に陥っていることもあるが、OPECが生産水準を調整し、価格を上げようとしている最大の理由は、石油業界全体の資本投資を増加せしめる水準にまで価格を戻し、将来の石油供給不足を回避するためだ、と発言していた。
・9月末のアルジェ合意以降、石油価格は15%上昇している。
・有力なシンクタンクであるチャタムハウス(英国・王立国際問題研究所)のニール・キリアムは「このような対立は驚きだ」と語った。
・ティラーソンの見方は、業界の大勢と大きく異なっている。
・仏トタールのパトリック・プイヤンヌ社長は、2014年に7億ドルだった資本投資が今年は4億ドルに落ち込む、「投資が不足する事態に直面している」現状が続けば、10年後には500~1000万B/Dの供給不足が生じる、としている。
筆者が戸惑ったのは、ティラーソンの発言が、筆者も同意している「業界の大勢」と大きく異なっていたからだ。
だが、あのエクソンの社長の発言だ。
2014年12月、今回の価格下落が始まった直後に「エクソンは40ドルでも120ドルでもやって行ける」と発言し、爾来筆者をして「40ドルが持続可能な最低価格水準」と判断せしめている御仁の判断なのだ。簡単に否定しきれるものではない。
一晩経って、今朝のFT記事を読んで、いま思うところは次のようなものだ。
レックスが言うように、2013年比6億バレル(筆者は、IEAデータに基づき、過去5年平均対比3億バレル過剰と認識していた)多い過剰在庫が、果たしてどの程度実際の供給量となるのだろうか。市場(参加者)は、いったん価格上昇基調が確定したら、さほど重きを置かないのではないだろうか。
シェールがスイングプロデューサーとなるというが、そのためには今で以上に潤沢な外部資金の流入が必要だが、もし金利水準が上昇したら、資金がシェールに流入しなくなるのではないのだろうか。
また、シェールの生産量が増えるということは、今まで以上に「掘削現場」が増えるということ。それだけ「想定外の事故」が起こる可能性が増える。果たして水圧破砕が今までと同じ水準で継続し続けられるであろうか。環境問題により、何がしかの活動抑制策が取られるリスクはないのか。
BPのデール・スペンサーが指摘したように*、シェール革命が北米外にまで浸透、拡大することになれば別だが、レックスも「北米」と限定しているから、それはない、という見方だろうな(*2015年10月「石油の新経済学」)。
はてさて昨日は、米国原油在庫が減少したこともあり、WTI価格が2%以上の上昇をみせたが、市場はこれから、レックスの発言をどう受け止めるのだろうか。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年10月20日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。