市民一人当たり議員報酬総額最安は228円の名古屋市

高橋 亮平

自治体の全議員の報酬総額が最も高いのは横浜市の13億3,182万円

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先週、『自治体議員報酬ランキング最も高いのは横浜市の1,549万円、次いで神戸市、北九州市と福岡市・・・』と題して自治体ごとの地方議員の報酬年額を比較した。
こうした議員報酬の議論といえば、「高過ぎる!」といった批判をよく見るが、先日のコラムでも触れたように、単に価格の高低だけで批判すればいいというのは短絡的だ。
先日のコラムでも「民主主義のコスト」という話をしたが、「地方議会」という仕組みにどれくらいのコストがかかっているのかということも考えていく必要がある。
議会に関するコストはもちろん議員報酬だけではないが、議員報酬1つを考える際にも、単に議員一人の月額報酬や年額報酬だけでなく、自治体全体で考えた時に議員報酬はいくらぐらいかかっているのか、またそれを市民一人当たりの負担で考えるとどうなっているのかといった視点で考えて欲しいと思う。
今回最新データに更新するにあたって、議員報酬以外にも各自治体の人口や議員定数などについても調べ直したことで、議員定数が大幅に減少していることも分かった。
議員定数は19,556人に、それによって議員報酬総額も1,274億円にとなっていた。
まず、自治体ごとの全議員の報酬総額から見ていこう。
前回同様全国813の市区の比較で、最も高かったのは、報酬年額でも最も高かく議員定数でも86人と最も多かった横浜市で、その額は13億3,182万円にものぼった。
分かりやすく言えば、横浜市は毎年、議員報酬だけで13億を支払っているということになる。
横浜市に次いで多かったのが大阪市(10億6,170万円)で、以後10位まで、神戸市(10億2,993万円)、札幌市(8億8,597万円)、京都市(8億7,411万円)、福岡市(8億2,386万円)、北九州市(8億1,057万円)、川崎市7億5,447万円)、さいたま市(7億2,993万円)、広島市(7億1,030万円)と続く。
逆に813市区で最も安かったのも議員報酬年額で最も安かった夕張市(北海道)だった。
その年総額はたった2,341万円だった。
次いで、歌志内市(北海道・3,130万円)、三笠市(北海道・4,347万円)、赤平市(北海道・4,460万円)、土佐清水市(高知県・4,844万円)、室戸市(高知県・4,918万円)、垂水市(鹿児島県・5,518万円)、下田市(静岡県・5,693万円)、枕崎市(鹿児島県・5,794万円)、芦別市(北海道・6,067万円)となっている。

人口一人当たりで見ると、最も低負担の市は228円なのに、最高負担市は8,542円

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こうした総額で見ると横浜市の13億円など、「毎年そんなに払っているのかぁ・・・」という気分になっている方もいるかもしれないが、横浜市の場合、人口が372万人もいるので、市民一人当たりで考えると、その額は年間358円とむしろ安い。全国813市区の比較でも2番目に安い額になるのだ。
「民主主義のコスト」ということから考えれば、むしろこちらの数字の方が重要なのかもしれない。
では、議員報酬総額の市民一人当たり負担で見た時のランキングはどうなるのだろうか。
最も一人当たり議員報酬総額が高かったのは、8,542円で歌志内市(北海道・人口3,664人)だった。
多くの人にとっては意外かもしれないが、市民一人当たりの負担で見ると、議員の報酬額や議員定数よりも人口数による影響の方が大きく、小規模な自治体の方が負担が大きくなる傾向がある。
2位以下に2倍近くの差をつけて圧倒的な負担となってしまっていた歌志内市だが、先述の全議員報酬総額では813市中2番目に少なかった。期末手当こそ99万6,300円と安い方から見ても121位だったが、報酬月額は24万3千円で全体で2番目に安い。にも関わらず、人口の少なさから一人当たりにすると一気にこうした状況になってくるわけだ。
その意味でも、議員報酬の見方も、単に「自分と比べて高い」、「地域の他の人の報酬と比較して高い」というだけでは見えてこない部分もあるように思う。
ちなみにワースト2位以下も、尾花沢市(山形県・4,796円・人口17,432人)、三笠市(北海道・4,701円・人口9,246人)、珠洲市(石川県・4,627円・人口15,533人)、士別市(北海道・4,223円・人口20,216人)、多久市(佐賀県・4,129円・人口20,188人)と人口の少ない自治体が続く。
唯一例外的に、7位に千代田区(東京都・4,114円・人口58,576人)が入っているのは違和感があるが、その後は10位まで、芦別市(北海道・4,052円・人口14,974人)、赤平市(北海道・4,044円・人口11,029人)、砂川市(北海道・4,029円・人口17,792人)となっている。

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こうして今回、議員報酬、議員定数、人口と全国813市区のデータを集積した結果、民主主義のコストの一つである市民一人当たりの議員報酬総額の負担を調べたわけだが、最も市民一人当たり負担が小さいのは、228円の名古屋市だった。
最も負担の大きかった歌志内市の8,542円と比べると約1/40であり、大きな差になっていることがあらめて分かった。
市民一人当たり議員報酬総額が小さい自治体を並べると、次いで、横浜市(神奈川県・358円)、大阪市(大阪府・396円)、札幌市(北海道・456円)、川崎市(神奈川県・517円)、世田谷区(東京都・543円)、福岡市(福岡県・549円)、さいたま市(埼玉県・575円)、浜松市(静岡県・596円)、広島市(広島県・605円)とベスト10を並べると、そのうち9市が政令市、残り一つが東京23区と、これまでの状況とまったく逆の安い方のランキングに大規模な自治体が集まった。

総額の多い政令市・県庁所在地が、市民一人当たりだと一気に安くなる

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自治体内の全議員報酬総額と市民一人当たり議員報酬負担の比較をカテゴリーごとに見ていくと、最も顕著にその違いが見えてくるのが政令指定都市だ。
議員一人一人の報酬年額も高く、議員定数も多い政令指定都市は、必然的に全議員報酬総額も大きくなる。
ところが人口規模が圧倒的に大きいため、一転、市民一人当たりの負担で考えると最も軽い自治体の方に政令指定都市が一気に集まるのだ。
図の左右を比較してもらうと、右端の順位が全て青かったものが、全て赤に変わっていることが分かる。
最も代表的なのは横浜市だろう。
次に顕著なのが県庁所在地だ。
もちろんその変化の最も大きな部分は政令市になるわけだが、県庁所在地で全議員報酬総額が安いワースト3でも44位の松江市(島根県)は2億4千万円で全体の127位、45位の山口市(山口県)は2億3千万円で全体138位、46位の鳥取市(鳥取県)でも2億3千万円で139位にいる。
しかし一方で市民一人当たり負担になると、最も高い1位の甲府市(山梨県)でも一人当たり1,481円で全体の547位、2位の佐賀市(佐賀県)は1,276円で617位、3位の山形市(山形県)は1,273円で618円と極めて低くなる。
こうした状況は23区にも見られる。
ただ23区の場合は、千代田区だけが例外となる。
千代田区の場合、議員定数は25人と23区の中では最も少ないのだが、議員1人の報酬年額が964万円と23区では大田区に次いで2番目に高い。全議員報酬年額では2億4千万円と大田区の半額以下になるわけだが、人口が5万9千人と23区の中では極端に少ないため、一気に市民一人当たりが高額になるという構造になっている。
23区で次いで市民一人当たり負担が大きいのは中央区だが、それでも1,936円(全体順位350位)と千代田区の4,114円(全体順位7位)に比べれば半額以下になる。
ちなみに23区で最も市民負担が小さいのはお金持ちの多いイメージもある世田谷区の543円(全体順位808位)だったのも面白い。

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一人当たり負担が大きい自治体の20%が北海道、90%人口3万人以下

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今回の813市区のデータ分析においても政令指定都市や県庁所在地、23区とそれ以外の一般市では傾向が異なるので、その他一般市だけ分けて、さらにその傾向を見ていくことにしたい。
全議員総額においては、議員報酬年額同様抜きに出て多かったのは大阪府の自治体で、ベスト50の中に9件も入った。逆にワースト50を見ると北海道が8件と抜けて多い。
一方で、市民一人当たり負担で見ると地域の状況も大きく変わる。
まず、総額では安い自治体が圧倒的に多いと紹介した北海道が、負担が高額な自治体50の中に最も多い10件が入る。
逆に大阪府内自治体は全く消え、大阪府の中で最も高い高石市でも2,304円で217位になる。
市民一人当たり負担が少ない自治体50を都道府県別で見ると、最も多いのが埼玉県の9件、次いで神奈川県の7件、愛知県と兵庫県の5件、千葉県と大阪府の4件と続く。
今回の市民負担の場合、人口が最も大きなファクターになってしまうため、人口規模による要因が大きくなるわけだ。
人口規模で見てみると、市民一人当たり負担が高額な自治体50の平均人口は22,461人なのに対して、低額自治体50の平均人口は341,206人となっていることからも分かる。
高額な自治体50は自治体数で見ても3万人未満が90%なのに対して、低額自治体50はその全てが人口10万人以上、76%は20〜50万人規模の自治体だった。

全国の規模も地域性も異なる自治体の自治の仕組みが本当に同じでいいのか?

今回は、前回の『自治体議員報酬ランキング最も高いのは横浜市の1,549万円、次いで神戸市、北九州市と福岡市・・・』に続いて、議員報酬を切り口に報酬年額だけでなく、議員定数をかけた総額、さらに人口で割った市民一人当たりとデータで紹介してきた。
これまで地方自治にあまり関心を持たれてこなかった方も、また短絡的に「議員の報酬が高い」といってきた方も、少し考えて見るキッカケになってくれたらありがたい。
議員定数についてはまたあらためて別にコラムを書こうかとも思うが、今回あらためて調べてみて、この数年でも多くの自治体で議員定数が減っていることを知った。
こうした背景には、おそらく「議員報酬なんて安ければ安いだけいい」「議員定数もできるだけ減らせ」といった世論があるようにも感じる。
もう一つの要因に2011年に行われた地方自治法の改正がある。
これによりこれまで法律によって定められていた各自治体の議員定数の法定上限が撤廃され自治体ごとに自由に決められるようになったことがキッカケになっている。
2000年にいわゆる地方分権一括法が制定され、形式上は、国と都道府県、市区町村が対等に扱われるとされるようになった。
しかし一方で、今回紹介したような自治の仕組みについては、未だ人数と報酬の削減以外の自由は少ない。
国会議員しか総理大臣を選べない一元代表性の国政と異なり、市長と議員の双方を選挙で選べる地方自治は二元代表制と言われるが、自治体ごとに人口や財政状況、地域事情が大きく異なるため、憲法や地方自治法などを改正して、二元代表制以外の多様な制度をとれるように改善すべきだとの意見もある。
2003年の段階で埼玉県志木市は、市長を廃止して議長に権限を一元化する特区制度を提案したが、憲法などに反するとして総務省が認めなかった。
国会に比べて、どの面でも地方議会が劣っているとはいえず、地方議員の中には国会議員たちよりも優秀な議員たちもいる。
ただ一方で地方議員たちたちが「仕事」だと言っているものの中には、「本当に議員の仕事なのか?」と思うものも少なくない。
議員の役割と実質的な選挙運動とは分けて考えていく必要がある。
二元代表制を取る地方議会の中では、国政以上に野党だけでなく、最大会派も含めて議会としての政策提言が期待される。
その意味からすれば、これまで以上に優秀な政策立案ができる議員を増やしていかなければならず、その面では報酬についてももっと高くしなければ優秀な人材が集まらないという考え方もあるかもしれない。
一方で、こうした議論の中では、よくヨーロッパ諸国などにおいては、地方議会がほぼボランティアで実施されている状況をいう人たちもいる。
ただ日本のコミュニティの実態から言えば、ボランタリーに依存している自治会やPTAすら既になり手がなくなってきている状況もある。
議員の役割がよく聞かれる「市民の声の代弁」というのであれば、むしろ地方議員は裁判員のようにランダムに指名する方法もあるかもしれない。
こうしたことも含めて、市民の皆さんには、まずは今回紹介したようなデータを元に現状を共有してもらう。
その上で、これまでの常識に捉われない新しい自治の方法を模索すると共に、それに見合った「民主主義のコスト」とはと考えてもらいたいと思う。
少し古いものにはなるが、2008年に当時先進首長と言われた方々と共に東京財団で政策提言した『分権時代の地方議会改革 –改革派首長からの提言-』( https://www.tkfd.or.jp/files/doc/2008-4.pdf )を紹介して今回の問題提起を終えたい。
興味のある方は、是非ご覧いただきたい。

 

 

 

高橋亮平

高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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