オバマ政権の中東政策の通信簿、その評価は?② --- 宇山 卓栄

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イラクへの限定空爆を発表した際のオバマ大統領(CNNより:編集部)

シリア問題と難民、IS・テロ問題など、現在の中東の混迷は、オバマ政権の怠慢と欺瞞に原因があると言えます。オバマ政権末期の現在において、その中東政策の全体概要を見直してみます。

オバマ大統領はイラクからの完全撤退を公約にして、大統領選に勝利し、2011年、公約通り、撤退を完了させました。撤退後、オバマ政権は300人の軍事顧問をイラクに送り、イラクの混乱を様子見しました。

イラク政府に不満を持つ、フセイン時代の旧バース党幹部たちは、ISに入りました。ISは在地の部族のリーダーに地域の統治を委託し、巧みにイラク政府に反発しているスンニ派を懐柔しました。

当初、ISは1万人程度の小さな武装集団に過ぎませんでしたが、中東の腕利きのテロリストを集め、資金や武器も豊富で、巧みな戦術と反対派への残虐行為で怖れられ、強大化していきました。2014年、イラク軍は60万人もの大軍団でしたが、ISのイラク侵攻の際、怖れをなし、戦わず、逃げました。

オバマ政権はイラクの空爆を部分的に実行しましたが、ISは民間人区域に入り込んだため、容易に狙い打ちすることはできませんでした。ISがシリアからイラクに侵攻しはじめた時、砂漠を横断して来ていますが、その時が空爆の絶好のタイミングであったはずです。しかし、オバマ政権は何もしませんでした。

シリア・イラクの内戦で、難民が大量に発生し、その大半が北方のトルコに流れています。トルコにとって、シリア・イラクの不安定は大きな災いであり、両国の安定化へ向けたトルコの介入とアメリカとの協調が期待されました。

しかし、オバマ政権はトルコのエルドアン政権と良好な関係を形成しませんでした。2009年のオバマのプラハ演説非核宣言に対し、エルドアン大統領はイランとの関係を強化し、アフマディネジャド大統領との会談で、イランには核保有の権利があると擁護し、「非核の呼びかけをおこなう者は、まず最初に自分の国から始めるべきだ」、とオバマを批判しました。

アメリカがイラクに介入すれば、イランやトルコが反発するという状況で、結局、オバマ政権は外交的な努力を何もしないということになり、しかし、それが事態をさらに悪化させるというジレンマに嵌まっていきました。中東が酷い状態になっていくのを放置していたオバマ政権の責任は重大です。

現在のイラクのような権力の空白地帯で、テロリストは暗躍します。テロを抑えるのは強い実効支配で全土をカバーし、空白地帯を無くすこと以外に方法がありません。

オバマ大統領は2014年の8月29日、「ウクライナやイラクの紛争問題などの脅威は、冷戦時代ほどではない」との見解を民主党支持者のパーティで示しました。冷戦時代の危機と、現在、起きている中東地域などでの危機は、性質が全く異なり、比較して論ずることはできません。

歴代のアメリカの大統領は僅かな危機でも、その芽が大きくならないうちに摘み取り、過敏に反応・対応して来ました。様々な外交的な努力によって、調整が試みられ、世界の諸地域のパワーバランスを維持することに神経を使いました。

大統領によっては、危機が過剰に喧伝されて、実体からズレていくことさえありましたが、オバマ大統領のように、「冷戦時代ほどではない」といって、開き直るようなことは、今までの大統領にはなかったことです。これも、イラク戦争の後遺症なのか、大統領も国民も、国際情勢への関与を拒否し、自ら思考停止に陥っているのが現状と言えます。

保守派を代表する現代史家のロバート・ケーガンは、政治誌『The New Republic』に記事を寄稿し、オバマ政権の怠慢を厳しく批判しています。『Superpowers don’t get to retire(大国は大国であることを辞めることができない)』と題された、ケーガンの記事は、世界中で、大きな反響を呼びました。

著作家 宇山卓栄
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。著作家。個人投資家として新興国の株式・債券に投資し、「自分の目で見て歩く」をモットーに世界各国を旅する。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『イラスト図解世界史』(学研)、『日本の今の問題はすでに{世界史}が解決している』(学研)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史で学べ! 間違いだらけの民主主義』(かんき出版) 『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)などがある。

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