オバマ政権の中東政策の通信簿、その評価は?① --- 宇山 卓栄

寄稿
オバマ渋い顔

中東外交は迷走が目立ったオバマ政権(Pars Todayより引用:編集部)

「イスラム国」(IS)が拠点とするモスルの奪還戦が進んでいます。モスルはイラク第2の都市で、シリアのラッカとともに、ISの最重要拠点となっています。モスル奪還戦はイラク政府軍がおこなっており、アメリカは後方支援に回り、直接に参加していません。

イラク政府軍45000人の兵が、3000~5000人のIS兵が守るモスルを包囲しています。すでに、ISの幹部は逃走したとされ、モスルのIS兵は統制を失っています。それでも、アメリカ国防総省は17日、モスル奪還戦について、「困難な作戦であり、ある程度時間がかかる」と述べています。

モスルの制圧が一気に進まない理由は約100万人の市民の安全を確保せねばならないためで、市街戦となれば、一般市民とIS兵との区別がつかなくなります。国防総省が言うように、モスル奪還は「困難な作戦」です。

そして、アメリカはこの「困難な作戦」には直接、参加しない姿勢です。今月だけで、アメリカはモスル周辺を70回以上も空爆しています。しかし、「困難な作戦」に地上部隊を投入する気はなく、イラク政府軍を前面に立たせています。

アメリカはイラクに、約5400人の「軍事顧問団」を送っていますが、イラク政府軍の助言や後方支援をおこなっているのみで、地上戦闘には参加していません。アメリカはオバマ政権以降、国内の世論を考慮し、戦闘の直接関与を避けています。モスル奪還戦はISの勢力を挫く重要な一戦にも関わらず、アメリカは直接、手を出さないというのです。

一方、シリア問題に関しては、先月21日の国連安全保障理事会で、アメリカ・ロシアの外相が非難の応酬を繰り広げました。国連の支援物資を運ぶ車両が空爆を受けたことに関し、ケリー米国務長官はロシアと政権軍による攻撃だと示唆しました(ケリーがキレ上がっている場面が報道された)。両国の対立は深まる一方で、シリア停戦に向けての米ロ交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。

こうした中東の混迷は、オバマ政権の怠慢と欺瞞に原因があると言えます。オバマ政権末期の現在において、その中東政策の全体概要を見直してみます。

オバマ大統領はイラクからの完全撤退を公約にして、大統領選に勝利し、2011年、公約通り、撤退を完了させました。

2013年、隣国のシリアで、「アラブの春」の民主化運動が波及し、アサド独裁政権を打倒しようとする反政府市民軍が形成されました。当初、アサド政権はリビアやエジプトのように、早期に倒れる、と予想されていました。しかし、アサド政権は反政府勢力を巧みに分断し、優勢となります。

アサド政権が反政府軍を標的に、一般市民を巻き込んで、無差別攻撃を仕掛けると、オバマ政権はシリアを空爆することを検討しました。しかし、アサド政権に武器輸出をするロシアの反対などで、空爆を見送りました。
アサド政権は勢いづき、反政府勢力の一部であったISをてこ入れし、反政府勢力の内部抗争を煽ります。ISは当初、アサド政権と対立していましたが、アサドが裏でこれを支援し、反政府勢力と対立させ、ISは反政府勢力を次々に潰していきました。

このように、ISはシリア内戦の中から台頭し、イラクにも進出します。奪還戦が現在、おこなわれているモスルを2014年に攻略し、銀行を襲い、400億円を奪いました。また、刑務所の囚人を解放し、自組織に編入しました。

②に続く

著作家 宇山卓栄
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。著作家。個人投資家として新興国の株式・債券に投資し、「自分の目で見て歩く」をモットーに世界各国を旅する。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『イラスト図解世界史』(学研)、『日本の今の問題はすでに{世界史}が解決している』(学研)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史で学べ! 間違いだらけの民主主義』(かんき出版) 『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)などがある。

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