【映画評】金メダル男

金メダル男 (中公文庫)

1964年、日本中が東京オリンピックに沸いた年に、秋田泉一は生まれる。ごく普通の少年だった彼は、小学校の徒競走で一等になり“一番になること”の幸福感のとりこになってしまう。それをきっかけに、さまざまな分野で一等賞を取ろうと決意。絵画や書道、火起こし、大声コンテスト、鮎のつかみ取りに至るまで、ありとあらゆるジャンルで一等賞をゲットし、いつしか“塩尻の金メダル男”と呼ばれるようになっていた。中学に入学し一等賞から見放された泉一は、高校入学後に巻き返しを図る。しかし、それは壮絶な七転び八起き人生のはじまりだった…。

お笑い芸人・ウッチャンナンチャンの内村光良が、2011年上演の一人芝居「東京オリンピック生まれの男」をベースに映画化した人間ドラマ「金メダル男」。内村光良の監督作品としては「ピーナッツ」「ボクたちの交換日記」に次ぐ3作目で、本作では、主演、原作、脚本、監督を兼任するという大活躍をみせる。物語は一等賞を目指す主人公の波乱万丈の人生を描くもので、内村と、Hey! Say! JUMP の知念侑李が二人一役で主人公を演じている。ストーリーは、日本版「フォレスト・ガンプ」に「スラムドッグ$ミリオネア」のテイストをちょっぴり加味したものだ。少年時代のエピソードから速いスピードで話が進み、各エピソードには豪華出演者がゲスト出演と、とにかくにぎやかである。だがウッチャンナンチャンの内村だからといって大笑いするコメディーを期待すると大きく裏切られる。これは七転び八起きの人生で奮闘する主人公・秋田泉一の情けなくも物悲しい半生記なのだ。内村の人脈だろう、主役をはれる出演者が続々と登場するが、やはりヒロインの木村多江がいい。無人島から奇跡の生還をとげた泉一が、木村多江演じる頼子と漫才コンビを組むエピソードは印象深い。だが見終わって記憶に残るのは、笑福亭鶴瓶が演じる寿司屋の大将が言う「あちらこちらに手を出さずに、ひとつのことを一生懸命まっとうすることも大事だ(注:セリフは関西弁)」という言葉。どこまでも前向きな主人公の、たくさんのエピソードをポンポンつないでいく構成は楽しいが、やはり映画はじっくりとみたいという思いと重なった。
【55点】
(原題「金メダル男」)
(日本/内村光良監督/内村光良、知念侑李、木村多江、他)
(前向き度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。