写真は元永知宏氏
プロ野球が再び脚光を浴びている。日本野球機構(NPB)によると2016年の観客動員数は、セ・パ公式戦入場者数24,981,514人で過去最高を記録している。しかもセ・パ両リーグともに過去最高を記録している。日本シリーズは広島に最終決戦の舞台を移すことになった。今年はどのようなクライマックスを迎えるのか楽しみである。
しかしこの時期は、華やかな舞台とは異なり球界を去る選手も少なくない。なかには甲子園や大学野球で華々しく活躍し大きな期待を背にプロの道に進んだ選手がいる。思うような結果を残すせずにユニフォームを脱いで現役生活に別れを告げる。
いま一冊の本が注目を集めている。『期待はずれのドラフト1位―逆境からのそれぞれのリベンジ』(岩波ジュニア新書) である。
■6名の元ドラフト1位をルポルタージュで追う
著者の、元永知宏(以下、元永)は、私の知人でありビジネスパートナーである。大学野球出身の根っからの野球好きでもある。1989年、立教大野球部4年時に、23年ぶりのリーグ優勝を経験する。大学卒業後、“ぴあ”に入社。関わった書籍が「ミズノスポーツライター賞」優秀賞を受賞する。その後は、フォレスト出版、KADOKAWAでビジネス書の編集者として活動し、現在はフリー編集者として独立をしている。
本書には、過去のドラフト1位で入団し現在は引退した選手の軌跡をルポルタージュで追っている。次の6名が、登場人物である。
1990年ドラフト1位 横浜大洋ホエールズ 水尾嘉孝
1999年ドラフト1位 阪神タイガース 的場寛一
2007年ドラフト1位 北海道日本ハムファイターズ 多田野数人
2001年自由獲得枠 日本ハムファイターズ 江尻慎太郎
1994年ドラフト1位 読売ジャイアンツ 河原純一
1993年ドラフト1位 阪神タイガース 藪恵壹
今回は、1999年ドラフト1位で阪神タイガースに入団した、的場寛一氏(以下、的場)の軌跡を追う。1999年、阪神タイガース再建を託された野村克也監督は、TD野球の中核を担う逸材として、九州共立大学のショート・的場に白羽の矢をたてた。
しかし、ID野球を担うどころか、プロ6年間で放ったヒットはわずか7本であった。力を発揮できずに的場はユニフォームを脱ぐことになる。的場には甲子園出場の経験は無かった。しかし、九州共立大は1996年の大学選手権で準優勝。1998年春にリーグの首位打者となり、その年のIBAFワールドカップ日本代表に選抜される。
1985年の日本一以降、阪神は低迷期に突入していた。1999年に再建を期待されたのが、弱小ヤクルトを3度優勝に導いた野村克也監督だった。阪神の弱点である二遊間の補強として、的場に期待が集まったのである。しかし怪我により、1年目はヒット5本に終わる。しかし、その後も怪我が原因となり結果を残すことができなかった。
2003年星野仙一監督が率いる阪神は18年ぶりにリーグ優勝を果たし美酒を味わった。しかし、的場に出場機会は与えられなかった。同年オフに戦力外通告を受ける。阪神での6年間で出場試合は24。ヒット7本、打点は1だった。
的場は現在、神奈川県川崎市にあるアメリカで絶大な人気を誇るスポーツブランド「アンダーアーマー」のベースボールハウスの店長を経て、現在は営業本部リテール部エリアマネージャーとのことだ。培った経験が役に立っていることだろう。
的場のメッセージが印象深いので紹介しておきたい。「つらいときには『いまは神様が我慢しろ』と言っているんだ、勉強する時期だと考えて我慢する。そうしているうちに、きっといいことが巡ってきます。どんなときでもポジティブに」。的場はプロを経験しながら、我慢することの大切さを培ったのかも知れない。
■選手のセカンドキャリアとは
プロ野球選手の多くは引退後の生活に不安を感じている。そして、彼らが感じている不安の多くは家族を養うための収入である。本来は野球に関連する仕事が理想だが、監督やコーチなどは、フロントとの関係性や監督との相性が重視される。
また、仮に成績を残していたとしても倍率が高く就任できるのはごく僅かとも言われている。野球のテレビ中継やラジオ中継も減少しているので、解説者やキャスターというポジションも狭き門といえる。
引退はすべての選手に平等に必ず訪れる。引退をどのように迎えるかは選手の活躍や貢献度合いかも知れないが、引退後のキャリアパスや情報が公開されていたら、引退後のキャリアはもっと違うものになっているように思う。
しかし、ドラフト1位選手の辺境からのリベンジは味わい深い。何歳になっても「人生はこれから」であることを教えてくれる。プロ野球の厳しさや苦悩。それを乗り越えようとする精神力。いま多くのビジネスパーソンに読んでもらいたい本である。
尾藤克之
コラムニスト
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