【映画評】インフェルノ

渡 まち子
INFERNO

宗教象徴学者のロバート・ラングドン教授は、記憶喪失状態でフィレンツェの病院で目覚める。おぼろげな意識の中に浮かぶのは、地獄のイメージ。理由もわからず病院で命を狙われたラングドンは、医師のシエナの助けで何とか逃げ延びる。世界的な大富豪で生化学者ゾブリストが、人口増加問題の過激な解決策として伝染病を利用した人口淘汰を目論み、殺人ウィルスの拡散計画を目論んで、ラングドンに挑戦状を突きつけたのだ。ゾブリストは、詩人ダンテの叙事詩「神曲」の地獄篇(インフェルノ)に暗号を隠し、ラングドンは、人類滅亡を阻止するため、その謎を解きながら、フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールへと向かう…。

ダン・ブラウン原作の“ロバート・ラングドン”シリーズの映画化最新作で「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」に続く第三弾「インフェルノ」。今回は対処法のない殺人ウィルスの拡散を阻止するため、敵も味方も、皆がラングドンを追いかける。そのラングドンは、頭部を強打し負傷したことが原因で記憶が曖昧という設定が効いていて、彼の見る幻覚と、恐ろしい地獄のイメージがまるでホラー映画のように重なっている。中世の疫病の地獄絵と、現代の風景がミックスされたそのヴィジュアルは、まさに世界の終わりという様相だ。誰が敵で誰が味方なのかがわからない状況もこの恐ろしさに拍車をかけている。

例によって博識のラングドン教授が、一般人では知りえないような、宮殿や大聖堂といった宗教建造物の抜け道や秘密の扉や天井裏の構造まで熟知していて、次々にあらわれる暗号の謎を瞬時に解きながら、警察や敵の包囲網をすんなりとくぐり抜ける。この展開があまりにも早業すぎて、見ている観客は、謎を考えたり、首をひねったりするヒマさえないという有様だ。ラングトンの“走り”についていくだけで精一杯なのだが、何しろフィレンツェのヴェッキオ宮殿、ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿、イスタンブールのアヤソフィア大聖堂という壮麗な歴史建造物を背景にしているので、知的好奇心をたっぷりと刺激される。思いがけない人物の思いがけない行動も含めて、あっという間に駆け抜ける2時間だった。
【65点】
(原題「INFERNO」)
(アメリカ/ロン・ハワード監督/トム・ハンクス、フェリシティ・ジョーンズ、オマール・シー、他)
(スピード感度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookから引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。