イタリア中部地震と神父の「天罰説」

イタリア中部で連日、地震が発生、住民は倒れた家屋を後に避難している。それに対し、ローマ・カトリック教会の超保守系放送「ラジオ・聖母マリア」放送の中で、Giovanni Cavalcoli神父は「地震はイタリア政府が7月末、同性間のパートナーシップ法案を発効させたことに対する神の刑罰だ」と語ったのだ。放送後、神父の「天の刑罰」発言に対し、様々な批判が飛び出している。

神父の「天罰発言」を理解するため、イタリアの同性カップル問題の経緯を簡単に説明する。

イタリアは久しく同性カップルの法的権利がない欧州で唯一の国だった。欧州人権裁判所は昨年、「イタリア政府が同性愛者の権利を認めないのは人権侵害だ」と批判した。同性愛を認めないローマ・カトリック教会の総本山バチカンのお膝元であるイタリアではこれまで賛成、反対の激しい議論が戦わされてきた。そのイタリアで同性カップルに夫婦に準じた権利を認める法案(パートナーショップ)が採択され、今年7月末に発効したのだ(同法案は同性カップルの相続権は認める一方、養子権は認めていない)。

そこで神父の「天罰発言」が飛び出したわけだ。その発言が伝わると、バチカン法王庁国務省総務局長官代理のジョヴァンニ・アンジェロ・ベッチウ大司教は「信者への侮辱であり、信者でない者へのスキャンダルな表現だ」と神父の天の刑罰説を批判する一方、地震の犠牲者に対して謝罪している。

同大司教は「フランシスコ法王は地震の犠牲者に対して心を寄せている。『ラジオ・聖母マリア』放送で神の刑罰と発言する者は慈愛の聖マリアの名前をも汚す者だ」と、異例とも思えるほど厳しく非難している。

同放送のLivio Fanzaga編集長も「天の刑罰発言は神父個人の見解であって、『ラジオ・聖母マリア』放送の意見ではない」と指摘している。ちなみに、「ラジオ・聖母マリア」放送は1982年、ミラノ市近郊の小さな町Erbaで創設された。毎日、礼拝を放送し、信者を牧会している。1990年代に入り、同放送はイタリア全土に放送されるほど広がっていった。

天災が生じるたびに、天の刑罰発言が飛び出す。例えば、東日本大震災の時、東京都の石原慎太郎知事(当時)が、「日本人の我欲を洗い落とすための天罰だ」と発言している。また、ローマ・カトリック教会のオーストリア教会リンツ教区のワーグナー神父は、米国東部のルイジアナ州ニューオリンズ市を襲ったハリケーン・カトリーナ(2005年8月)について、「同市の5カ所の中絶病院とナイトクラブが破壊されたのは偶然ではない。神の天罰が下されたのだ」と発言し、大きな波紋を投じたことがある。

天罰説の問題は、被害を受けた被災者の心を傷つけること、神の立場から他者を裁く傲慢さが潜んでいることだ。もちろん、賢明な人は人災や天災からその教訓を読み取ろうとする。「教訓」には、次回、同じ失敗を繰り返さないため、といった啓蒙的な意味合いが強い。一方、「天罰説」には啓蒙性が少なく、犯人捜しの延長に過ぎないケースが少なくない。これらは、天罰説が常に反発を呼ぶ主因となっている。

当方は「天災に隠された『意味』を解く」(2015年4月28日参考)のコラムの中で書いたが、「天罰」説より、神からの「メッセージ」説を支持する。神は人間を罰することに忙しい、とは考えないからだ。ただし、天災の中には、程度の差こそあれ、何らかの「意味」が含まれていると受け取っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。