「指折り数えて待っているのか」とからかわれるかもしれないが、11月8日で60日目となった。何の話かといえば、北朝鮮が9月9日、5回目の核実験を実施してからの日数だ。核実験後、放射性物質希ガス、キセノン131、キセノン133が依然検出されていないのだ。
ウィーンに暫定技術準備委員会を設置する包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によれば、核実験をしたかどうかは放射性物質が検出されない限り、断言できない。すなわち、北朝鮮の5回目の核実験はまだ未確認といわざるを得ないわけだ。
もちろん、5回目の場合も通常の地震ではない人工地震波(S波)が記録されたが、それは地震が自然ではなく、人工的に発生した可能性を示唆するだけで、核実験を実証するものではない。なぜならば、TNT爆弾でも人工地震波は発生するからだ。
当方はこのコラム欄でこのテーマを数回扱った(「北の核実験で希ガス検出は困難」2016年9月17日参考)。それではなぜ再び同じテーマで書きだすのかと追及されるかもしれない。答えは、3回目の核実験では実験55日後、日本の高崎放射性核種観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。今回はその記録を大きく破り、60日となったのだ。新記録だ。そこにニュース・バリューを見出し、それをテーマにしたコラムを書こうと考えた次第だ。
北は過去5回、核実験を実施したと表明しているが、放射性物質が検出され、追認されたのは最初と3回目の実験だけだ。1回目はキセノン133(Xe133)が実験2週間後の10月21日、カナダのイエローナイフ観測所で検出された。3回目は核実験55日後の4月8、9日、日本の高崎放射性核種観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。だから、厳密にいえば、「北はこれまで2回、核実験を実施した。それ以外の3回は限りなく核実験と疑われる地震が起きた」といえるだけだ。
CTBTOのヴェヒター広報部長は9月、当方の質問に答えて、①北朝鮮の山脈は強固な岩から成り立っているため、放射性物質が外部に流出し難い、②北当局が核実験用トンネルを閉鎖している、という2つのシナリオを指摘し、「なぜ北の核実験では放射性物質希ガスが検出されないか」という質問に答えた。
60日間、検出されなかった、ということは、北の5回目の実験は核実験ではなかったか、核実験後も実験に通じるトンネルは閉鎖されていて、放射性物質が外部に流れないかの2つのシナリオが考えられるわけだ。
メディアでは、「北は過去、5回、核実験を実施した」と断言的に書く。「北は2回、核実験をしたが、他の3回は未確認だが核実験をした可能性がある」とは書かない。字数が増えるからではない。過去2回、核実験をした国ならば、後の未確認実験も核実験だった確率が高いというだけだ。最終的判断は現地査察(オン・サイド・インスペクション)によるしかない。
それにしても、北朝鮮が絡むと全てが不確実、不透明、不正確なものとなる。3代の世襲独裁国家・北朝鮮は、「確実性」「透明さ」そして「正確さ」から最も遠い国だということを改めて感じさせられる。
なお、放射性物質未検出60日目の8日、ヴェヒター広報部長は当方との電話インタビューで、「未検出だが、観測は継続している。北が放射性物質が外部に流れないように特別の対策をとっているのかもしれない。われわれとしては加盟国と連携して観測を続けるだけだ」と述べた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年11月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。