トランプはヒラリーよりおもしろい

池田 信夫


きょうの言論アリーナ緊急特番では、トランプの勝利を当初から予想していた渡瀬裕哉さんと一緒に、今回の選挙結果を分析した。おもしろいのは、最後のアンケートで「トランプ大統領はいいと思うか」という質問に「いいと思う」が78.8%もいたことだ。

トランプはよくも悪くも、平均的なアメリカ人を代表している。それは日本人の知っているニューヨークやカリフォルニアではなく、中西部の田舎のおじさんおばさんだ(今回の選挙でも郡部で強かった)。彼らの受け継いでいるのは、独立革命でイギリス本国と戦い、国家権力に対する不信感をもつ保守派の伝統だ。

これに対してルーズベルト以降、リベラル派が政権を取るようになり、Affirmative Actionのような平等主義とケインズ的な温情主義が続いたが、1980年代のレーガン政権以降、保守主義が息を吹き返した。彼らは自分の生活は自分で守るという意識が強く、政府の介入を拒否する。Politically correctな「言葉狩り」に反発し、トランプの暴言に拍手する。

彼らの精神的支柱は、キリスト教である。これも建国の父のピューリタニズムの遺伝子だろう。数万人の信徒を擁してディズニーランド化した「メガ・チャーチ」や、ケーブルテレビで数百万人に伝道するTVエヴァンジェリストなどは、キリスト教がアメリカの精神的なインフラになっていることを示している。

教会はもとは政治とは無縁だったが、カーター政権で南部の福音派が政治的な発言力を強めたことをきっかけにして、共和党の中で宗教右派の発言力が強まった。彼らの勢力が最大になったのが”born again”体験をもつブッシュ(子)大統領のときだった。

トランプ自身は宗教色のないビジネスマンだが、「ポジティブ・シンキング」の創始者であるノーマン・ヴィンセント・ピールの教会で、彼の説教を聞いて育ったという。ピールの説教には教義はほとんどなく、人生論に近い。トランプの演説も無内容だが、福音派の牧師のように単純で力強い。

このような人々の支持を得たトランプは、特殊アメリカ的な大統領になるだろう。それはレーガンのように、知的ではないがアメリカ人の心に深く根ざしている。B級俳優だったレーガンが偉大な大統領になったように、トランプも「化ける」かもしれない。少なくとも朝日新聞のように退屈で偽善的なヒラリーよりはおもしろい。