今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、こんな国際比較が話題となりました。
日本のソフト技術者、労働時間は最も長く、やりがいは最下位 国際比較
まとめると「日本人労働者は相対的に労働時間が長く、賃金は低く、仕事にやりがいを感じていない」ということです。ソフトエンジニアに限らず、国際的に見た日本人の長時間労働や低生産性、仕事嫌いは割と有名な話ですが、こうして全部並べて比較されるとなかなか壮観です。
普通、仕事はきついけど高賃金とかやりがいはあるとか、なにかしら一つくらい売りがあるものですけど、全部負けてるってある意味で凄いですね。なんだか昔の共産圏みたいです。
なぜ、日本の労働環境は長所が一つもないんでしょうか。そして、現状の枠組みの中でそれらを改善する余地はないのでしょうか。キャリアを考える上で非常に重要なポイントなので、まとめておきましょう。
“三無い職場”の作り方
筆者は以前から(長時間残業が慢性化しており)時間的余裕がない、給料も高くない、やりがいもない、というような職場を“三無い職場”と呼んでいます。なぜこんな職場が先進国の日本に存在しているんでしょうか。
ここは発想を変えて、人を採用する企業の立場になって考えるとわかりやすいです。あなたが新しく作った会社の人事部長だとしましょう。日本の法律判例を守りつつ、これから新たに人を雇って会社を回していかないといけません。
さて、とりあえず日本には終身雇用という暗黙のルールがあり、一度人を雇うと会社が倒産寸前に追い込まれるまで解雇は難しいという現実があります(ちなみに一度倒産したJALはその時クビにした従業員と最高裁まで争ってるので、大手だと倒産しても解雇はダメ、となる可能性すらあります)。
なので、あなたは会社を回すのに最低限必要な人数をさらに下回るくらいの採用数に抑えておく必要があります。たとえば従業員100人必要な仕事量なら採用数70人くらいのイメージです。そして、労働力の不足分は残業で対応することになります。そうしておけば、多少暇になっても残業減らすだけで調整できるので雇用は守れるわけです。
国も36協定という抜け穴を作ってくれているので、労組と協定結んで月150時間くらい残業可能なようにしておけば問題ありませんね。労組も自分たちの雇用を守るためなので喜んで協力してくれるでしょう。余談ですけど、ちょうど先日、電通に強制捜査が入ったことが話題となりましたが、あれはこうした手続きに不備があった点が問題視されているだけであって、長時間労働時間そのものが問題視されているわけではないので安心してください。
次に賃金ですが、以下の2つの理由から出来るだけ低い水準に抑えておく必要があります。まず、65歳までという超長期間の雇用を保証するため、それまでに起こり得るリスクを織り込んでおく必要があります。具体的に言うと、二度や三度くらいの経営危機はあるでしょうけど、そうなっても毎月給料支払えるだけの水準をキープしておくわけです。
2つ目の理由は、時給で払わないといけないから、です。販売員や工場の製造ラインと違い、ホワイトカラーは労働時間に応じて成果が上がるわけではありません。実際、明るいうちはくっちゃべったりSNSやりまくった挙句「夕方から本気出す」みたいなオジサンは掃いて捨てるほどいます。そういう人にもきっちり残業代を支払ってあげるために、あなたがすべきことはただ一つ。基本給をうんと低く抑えておくことですね。要はトータルでの人件費を一定に維持するわけです。
余談ですけど、最近、政権が企業に賃上げしろしろうるさく言ってますが、65歳雇用義務化や社会保険料の引き上げをさんざんやっといて(実質的に人件費は大幅に上がってるのに)これ以上は上がるわけないだろうというのが労使の本音ですね。まあそれ言っちゃうと「じゃあ解雇規制緩和したら賃金上がるんだね?」と返されるので連合なんかは口が裂けても言いませんけど。
最後に、やりがいについて。会社内には内勤から営業、企画までいろいろな職種が存在します。それぞれに秀でた人材を必要に応じて労働市場からリクルートしてくるのが最も合理的ですが、残念ながら終身雇用のわが国ではそういうキャッチ&リリース方式は実現困難です。
そこで、社内の余ってる人を人手不足の現場にローテーションすることで対応するしかありません。「私はかくかくしかじかの仕事がしたいです」って言ってる奴の話をガン無視して会社都合でがんがん使いまわすわけです。もちろん全国転勤もセットです。
まとめると、あなたが会社を回すためにしなければならないこととは、一定の残業を前提に必要最小限の人員を確保しつつ、基本給は出来るだけ低く抑え、将棋の駒のごとくぽんぽんローテーションさせて使い倒すことです。新卒一括採用で自社特化型人材にじっくり育てると、逃げられにくいから定着率もばっちりです。
というわけで、あなたの作った会社は一見すると奇妙に安定して見えますけど、匿名でアンケートでもとってみるとボロ糞に書かれる立派な“三無い職場”と化していることでしょう。
以降、
本来、効率的な働き方と高給とやりがいは矛盾しない
現状の枠組みで3兎を追求するテクニック
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年11月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。