米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受けて、どうやら市場の潮目が変化してきたようにも見える。それを顕著に示しているのが、長期金利の上昇である。
米国やドイツ、英国の10年国債の利回り、いわゆる長期金利の推移をグラフでみてみると2014年あたりからの低下トレンドがすでに終了し、何かしらをきっかけとして反発局面に移行してもおかしくはなかった。
そのきっかけが米大統領選挙の結果となることは予想されていた。ただしこれはクリントン候補の勝利により市場が安堵し、12月のFOMCでの利上げも予定通り実施されると予想され、それを背景に米長期金利は2%に向けてじりじりと上昇と、そんなシナリオを描いていた。
ところが米大統領選挙の蓋を開けてみると、なんとびっくりのトランプ候補の圧勝となった。金融市場では当初、リスクオフの動きが吹き荒れたのだが、懸念は期待に変化してきた。トランプ氏は選挙前の過激な発言は控え、オバマ大統領と早速合うなど融和を図る姿勢に転じた。
トランプ氏は米国の成長率を2倍に引き上げるとの姿勢も示し、経済成長に向けたテコ入れを図る姿勢も示した。インフラを中心とした財政出動となれば財政悪化も懸念される。すべての国の輸入品に関税をかけるとのトランプ氏の発言もあり、関税引き上げによる物価上昇も意識された。
10日の米国株式市場では民主党政権下で強まった金融や製薬業界への規制が緩和されるとの思惑も出てきたことで、建機などとともに金融や薬品会社の株が買われ、ダウ平均は過去最高値を更新した。これに対してトランプ氏が距離を置きそうなIT絡みの銘柄は売られたことでナスダックは下落するなど二極化も進行した。
物価上昇観測、財政赤字拡大の懸念とともに、規制緩和による成長率の引き上げなどが今回の米長期金利の上昇の背景にあるようだが、FRBの動向に向けた思惑も影響を与えている。
トランプ氏が勝つと市場は混乱し、12月のFOMCでの利上げは先送りされるとの見方が強かった。確かに市場は混乱したが、リスクオフからすぐにリスクオンに転じ、むしろ今後の米国の景気への期待感を強め、物価上予想も強まった。つまりFRBにとっては利上げに動きやすい環境となりつつある。いったん引き下げられた12月のFOMCでの利上げ予想は再び上昇してきており、市場の予想通りにFRBが利上げを決定するとの可能性が出てきた。これも今回の米長期金利上昇の背景にある。10日に米長期金利は2.15%に上昇した。
この米長期金利の上昇に影響され、ドイツや英国を中心に欧州の国債利回りも大きく上昇した。あきらかに地合は変化しつつある。つまりきっかけ次第で上がることが予想された欧米の長期金利がここにきて底打ち感を強めて、上昇トレンド入りしてきた可能性がある。
すでに日米欧の大胆な金融緩和政策には限界が見えていた。そもそもさらに金融を緩和しなければいけない状況でもない。それでも市場の期待を引き込もうと日銀など緩和への前傾姿勢を維持させているように見せてはいるが、すでに緩和の時代ではなくなっている。金利がつかない、もしくはマイナスという異常な状態から脱する時がきている。
日本の長期金利もわずかではあるが上昇しつつある。長期金利をコントロールしようとしている日銀ではあるが、長期金利は日銀の政策だけで動くものでもない。海外の金利動向なども当然影響を受けるし、環境そのものが変化してきた可能性がある。今後の日本の長期金利の動向と、それに対し日銀がどう動いてくるのかも非常に興味深いところである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。