FTの在ロンドン・エネルギー担当記者David Sheppardが如何にも、という記事を書いている。”OPEC v Donald Trump: who has who over a barrel” (Nov 11, 2016 around 14:00 Tokyo time) という記事だ。サブタイトルが “Cartel’s plan to cut production is complicated by new president backing shale” となっており、11月30日に予定されているOPEC総会で生産削減に合意しても、新大統領のエネルギー政策により果実をすべてシェール産業に持って行かれてしまうかも知れない、と指摘しているのだ。
10日のEd Crooks(在ニューヨーク)の記事とは少々異なった切り口からトランプ「大統領」のエネルギー政策を記載しており、非常に面白い。
少々長いので、興味がある人には原文を読んでもらうこととし、筆者が面白いと思った箇所を紹介しておこう(このブログも字数制限があるのです、乞ご容赦)。
・トランプは長く、醜い選挙戦のさいちゅう、OPECはアメリカを「人質」に取っていると非難し、イラクの石油を取り上げる(take)とか、サウジから石油輸入を停止するとか脅してきた。
・だが、大言壮語が不要となったいま、OPECにとってより複雑な脅威は、トランプが約束した「エネルギー自立(Energy Independence)」だ。
・化石燃料に決して友好的ではないオバマ大統領の8年間にシェールブームが起き、米国の石油生産量を倍増させた今となっては、10年前なら放置できたアメリカの「エネルギー自立」は無視できなくなっている。
・2年前にOPECが仕掛けた価格戦争により、2011年から2014年まで年間100万B/D増加したシェールオイルの成長は止まり、米国の石油生産を10%減少させることに成功した。
・だがOPEC諸国にも致命的なダメージを与え、いまOPECは十字路に立っている。
・(減産することにより)価格を上げると、米国シェール産業が目覚め、結局顧客も収入も失うかもしれないというリスクが存在していることをOPECのリーダーであるサウジは知っている。
・これまでの計算では、価格を65ドル程度に戻しても需要をさほど減らず、シェールの生産もさほど促進しないで済むと見られていた。だが、トランプが選ばれたことにより、それらの計算は脅威にさらされている。トランプはエネルギー産業の規制を緩め、連邦管轄地域での掘削を開放すると言っているのだ。
・(トランプのこれらの政策が)短期間に実をむすぶことはない。シェール業者は規制があるからではなく、経済性がないから掘削しないのだ。銀行が資金を供与しない。
・だが、OPEC(の減産)により価格上昇が実現し、トランプの税率引き下げ、規制緩和等により更なるコスト削減が実現すれば、OPECが考えているよりも早くシェールは回復するかもしれない。
・世界的に積み上がっている膨大な在庫を考えると、シェールが余りにも成功すると、価格が再び下落し、止める手立てがなくなるかもしれない。
・米国大統領は、仮にできるとしても、「エネルギー自立」の約束をすぐに実現できるわけではない。現在(アメリカは)、450万B/Dのシェールとそれより少し多い在来型の石油を生産しているが、それでも700万B/D以上を輸入しているからだ。
・何年か後にトランプが「承認」するKeystone XLパイプラインにより、カナダのタールサンド(重質油)が流れ込むようになるが、これも「エネルギー自立」実現を遅らせる。現在でも輸入の3分の1をカナダに依存している。
・より重要なことは、米国の一人あたりエネルギー消費量が同じように裕福な国と比べても圧倒的に多いことだ。このことについて、トランプはこれまでいっさい発言していない。
・気候変動を制限することについては、まやかしであり「環境論者を気持ちよくさせるだけの高価な方策だ」と言っている。
・価格が下がったことにより、米国のドライバーたちが燃料大量消費のトラックやSUVに向かっている現状を見るにつけ、トランプの「エネルギー自立」の夢は増大する需要の「人質」になっていると言える。
なるほど。
「OPECはアメリカを『人質』に取っている、と非難しているが、人々に好きなだけ消費させて『エネルギー自立』の夢そのものを『人質』に取られているんじゃないの」と、トランプ「大統領」のエネルギー政策に整合性がないことを皮肉っているわけだ。
Davidはきっとイギリス人だろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月12日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。